英国の美術館、テートモダンがイタリア人画家アメデオ・モディリアニの展覧会を開催している。この展覧会では、会場の大半を見て回った後、バーチャルリアリティツアーで1919年のパリにタイムスリップし、モディリアニの最後のアトリエを少しの間見学することができる。
そのアトリエでは、天井の穴から雨水がバケツに滴り落ち、テーブルの上ではまだたばこの煙がくすぶっている。まるで、モディリアニが外出したばかりで、すぐに戻ってくるかのようだ。モディリアニは不在だが、来場者はそのアトリエのストーブのそばに座り、イワシの缶詰や空っぽの瓶などさまざまなものを見て、同氏の波瀾万丈な人生について知識を深めた後、展覧会に戻って残りの作品を鑑賞することができる。
テートモダンでデジタルコンテンツを統括するHilary Knight氏は、次のように述べている。「本当に驚いたのは、実際にストーブの暖かさを感じたような気持ちでバーチャルリアリティツアーから戻ってきた人の多さだった。そういう人が大勢いた。ジメジメしたアトリエの匂いや絵の具の匂いがしそうだと感じた人もいた。目で見ている場所に自分が実際にいるかのように思い込ませる人間の脳の力は、非常に興味深い」
このような展示は、テートモダンにとって初の試みである。9台の「HTC Vive」ヘッドセットを設置したVRルームは、展覧会の順路の最後の方に配置されている。来場者が椅子に座って、ヘッドセットを装着すると、モディリアニのアトリエの椅子に座っている場面になり、6分間のVR体験が始まる。
モディリアニを知る友人たちが残した言葉や、テートモダンの専門家による解説を聞きながら、来場者はアトリエ内のさまざまなものを見て、同氏の創作の仕方、作品や手法の詳細について、知識を深めることができる。バーチャルギャラリーのさまざまな場所に白い点が配置されているので、それをアクティベートすることにより、より詳細な情報を知ることができるようになっている。
展覧会で体験できるのは座った状態でのVRだが(多くの人にとって、これが初めてのバーチャルリアリティ体験であることを考えると、賢明な判断だ)、VRアプリストアの「Viveport」ではViveユーザー向けに、「自宅体験用」の歩き回れるルームスケールバージョンも提供されている。
Knight氏によると、VR体験のような取り組みは、来場者が芸術とつながり、理解を深めるのに役立つかもしれないという。同氏は米ZDNetに対し、「われわれは、先を見据えて、美術館の未来、そして、来場者たちとコミュニケーションをとる方法を考えていきたいとも思っている」と述べた。
来場者はモディリアニの作品には詳しいかもしれないが、画家自身の逸話は知らないかもしれない。Knight氏によると、テートモダンでは、そうした情報を提供する手段として、来場者が説明を読んだり、通常の音声ガイドで聞いたりするのではなく、実際に感じることのできる方法としてVRを利用したいと考えたという。
来場者はこのアトリエ体験の中でバーチャルな体を与えられるわけではなく、肉体を離れた霊魂のように空間を漂う。当初、この体験をテストした人たちで、自分がこのアトリエの世界でどのような存在なのかをきちんと理解している人は誰もいなかったが、彼らはそのことを気にしなかった、とKnight氏は語る。しかし、それらのテスターの中に、「モディリアニになりたい」と考える者は皆無だった。「モディリアニのキャラクターを演じたいと思う人はいなかった。それをやるとリアルさが薄れてしまうことも理由の1つだろう」(同氏)
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