かつて、大きなスピーカを備えたラジカセやコンポは“一家に一台”だったが、いつの日か音楽の楽しみ方はPCやスマートフォンに置き換わり、オーディオ機器の市場環境は大きく変化している。一方で、LINE、Google、Amazonは相次いで人工知能を搭載したスマートスピーカを市場に投入しており、かつてはオーディオ機器だったスピーカの定義そのものを大きく変えようとしている状況だ。
このような市場変化に、長年業界をリードしてきたオーディオ機器メーカーはどのような戦略で挑んでいくのだろうか。オンキヨー&パイオニアイノベーションズ プロダクトプランニング部 ヘッドホン企画課の課長である足達徳光氏に話を聞いた。
なお、オンキヨーグループは11月30日、Googleアシスタントを搭載したスマートスピーカ「G3(VC-GX30)」と、Amazon Alexaを搭載したスマートスピーカ「P3(VC-PX30)」の2機種を国内発表している。インタビューはこの発表前に実施した。
――まずは、音楽を聴くデバイスがPCやスマートフォンへと置き換わった現在、オーディオ機器に関する市場環境変化をどのように受け止めていますか。
確かに、スマートフォンの登場で人間と音楽の距離は大きく変わりました。これまでも音楽は好きな人にとっては身近な存在で、家に帰ればオーディオで自由に楽しめるものでしたよね。しかし、誰もが肌身離さず持ち歩くスマートフォンは音楽をも誰もが持ち歩く時代をもたらし、オーディオ機器市場もスマートフォンを軸にしたヘッドホンやイヤホンを中心としたものへと急激にシフトしていきました。
オーディオ業界全体では微減傾向にありますが、これをヘッドホンとイヤホンに限るとその市場規模は成長を続けています。特に興味深いのは、台数の伸び以上に金額の市場規模が伸びているということ。つまり高級機種が売れ始めているのです。いい音にお金を掛けたいという消費者の意識変化が、市場の成長に現れていると思います。
――スマートフォンが流行し始めた頃は、端末付属のイヤホンで音楽を聴く人も多かった。やがて、スマートフォンメーカーが付加価値をつけるために音にこだわるようになりました。そうした動きが消費者の耳を養っていったということでしょうか。
そうですね。日本では特にこの傾向が顕著なのですが、社内には“ヘッドホンスパイラル”という言葉があります。最初はスマートフォンに付属するイヤホンを使うのですが、何か物足りなさを感じて、まず3000円前後のイヤホンを買う。そして、それに物足りなさを感じると次は5000円前後のイヤホンを買う。このように、購入する商品の単価がどんどん上がって高級志向へと変化していくのです。
――その一方で、iPhoneがイヤホン端子を廃止したことで、ワイヤレス製品の市場も大きく成長していると思います。
ワイヤレスの市場は世界的に急激に伸びていますね。グローバルで見ると先進国市場の半分程度はワイヤレス製品が占めています。ワイヤレス製品は音質に関する技術革新がどんどん進んでいるので、今後は高級機などの登場で市場規模はさらに大きくなることが考えられます。
――スピーカや家庭用オーディオ機器の市場に関してはいかがでしょうか。スマートフォン関連製品が市場全体を牽引している一方で、これらのカテゴリに関しては、より活用ニーズに的確に対応したニッチな製品が必要なのではないかと感じます。
世の中はスマートスピーカが大きな動きを見せていますが、オンキヨー&パイオニアとしてはこのスマートスピーカ市場に全方位で対応していこうという方針を、9月に欧州最大の家電展示会「IFA」で表明しています。これは、私たちでAIの心臓部を作っていくということではなく、GoogleAssistant、Amazon AlexaといったメジャーなAIプラットフォームに対応する関連オーディオ製品をどんどん展開していこうということです。スマートスピーカ市場のうち、“音”に関わる部分のシェアは私たちでしっかり取っていきたいと思います。
一方で、汎用的な製品ではなく特定デバイスのユーザーに特化した商品も積極的に展開していきます。たとえば、今夏に発売した「RAYZ Rally」は、アップルのLightningコネクタ専用のスピーカフォンで、移動の多いビジネスパーソンを主要ターゲットにグローバルで展開しています。
当初はiOS端末で電話会議を実現できる製品として企画しました。高価な電話会議システムを導入するよりも手軽で、働き方が多様化するこれからの時代にマッチすると考え、実際に遠隔会議システムを開発するベンチャー企業との協業を模索したり、法人に導入したりしています。しかし製品を世に送り出してみると、Lightningコネクタで接続してバスパワーで動くマイクスピーカは世界的に見ても非常に稀な存在で、ビジネス以外の色々な用途でも使用されているのです。
たとえば、iPhoneユーザーが外部スピーカで音楽やYouTubeを楽しむときにはBluetooth製品をペアリングして使いますが、音のタイムラグにストレスを感じたり、充電切れで使えないこともあると思います。そこで、Lightningコネクタに挿してスピーカを使えると、接続の手間が大きく省けて音のタイムラグも充電切れの心配もありません。こうした利便性が注目されているようで、オーディオ製品にはまだ“未踏の領域”があると改めて気付かされました。
また、小さい端末でバッテリも搭載していない軽いスピーカなので、持ち歩いてどこでも使うことができるポータビリティも利便性につながっていると思います。消費電力はiPhoneの内蔵スピーカよりも少ないので電池持ちの心配はなく、またRAYZ Rally自体にもLightningコネクタ(メス)を備えているのでiPhoneを充電しながら使うことも可能です。
スピーカの音響チューニングは、スピーカフォンという特性上、声の音域を強調するようにしてあり、音楽を聴いた際にはボーカルの帯域が聴きやすくなっています。また、マイクは幅広い範囲を集音でき、大きな会議室の中で発話される小さい声も拾うことができる精度を実現しています。
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