拡大するヘルステック市場、日米で異なる特徴と課題--メドピアに聞く - (page 2)

井口裕右 別井貴志 (編集部)2017年11月08日 08時00分
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ヘルステックの進化を阻む、データ標準化の壁

--こうした米国の動向を踏まえて、日本の現在のトレンドを教えてください。

石見氏:まず、米国でヘルステックはどう変容してきたかと言うと、サービスの第1段階では医療従事者のコミュニティや患者のコミュニティの形成、第2段階が相互のコミュニティを繋ぐインタラクションの創出、第3段階に電子カルテやPHR(パーソナルヘルスレコード:自分の医療情報をや健康情報を永続的に保管し活用できる仕組み)を使ったデータの蓄積、第4段階がこのデータを活用した新たな意思決定手段の開発という形で発展しています。日本のヘルステックはまだ第3段階にあると思います。残念ですが、米国のほうがずっと先に進んでいる状況です。

 加えて、この第3段階から第4段階への移行というのが大きなジャンプアップになる。個人情報保護に関する課題や医療データの標準化が行われていない、地域によってデータのフォーマットや量に差があるという課題があるのです。米国のヘルステックが大きく進んだのは、オバマ政権の際にオバマケア政策の中で予算を大きく計上して医療情報のデジタル化を一気に進めたというのが大きな背景にあります。国として共通のデータ基盤を作って企業への参入を促すくらいの強いリーダーシップが必要なのではないでしょうか。

 日本でもこのような動きは見られますが、時間が掛かると思います。加えて、レセプト(診療報酬の明細書)だけではデータが十分ではないという課題もあります。レセプトにはすべての情報が載っているわけではない。どのようなデータを扱うのかを議論していく必要があると思います。この点は、今回の「Health 2.0 Asia - Japan 2017」でもテーマにする予定です。

「残念ながら米国のほうがずっと先に進んでいる状況」──と石見氏
「残念ながら米国のほうがずっと先に進んでいる状況」──と石見氏

上田氏:日本でAI開発に携わる方に伺うと「日本と米国ではAIに学習させる教師データの量が圧倒的に違う」という声を聞きます。日本では病院が解析に有効なデータを開放してくれません。米国ではデータがオープンソース化されているので、教師データを十分に確保できるのです。この分野は行政主導で進めなければなかなか医療データの標準化、デジタル化は進まないのではないでしょうか。

 ただ、米国も州によって医療制度が大きくことなるため、一筋縄ではいきません。もっとも、各州の規模が大きいため州内の標準化が実現するためでもそのメリットは非常に大きいのです。

--ただ、日本でも狭い地域の医療連携だけでデータの標準化や共有がされているケースはありますよね。

上田氏:そうですね。ただ全国一律の標準化ではないので汎用性がないという点が課題です。この点については地域包括ケアというテーマを「Health 2.0 Asia - Japan 2017」で取り上げる予定です。海外の製薬会社が複数社で行う試みで、日本をひとつの地域と捉えて一律の医療連携、医療介護連携のソリューションを開発しようとしたものの上手く行かず、各自治体を個別化してソリューションを実装していくという方針に転換したというケースがあります。このセッションでは、こうしたケースを実際の製薬会社や開発会社の担当者や地域のオピニオンリーダー、医師などが登壇して紹介する予定です。

-- 一方で、地方で活動する医師の立場では多忙な業務の中でシステムやITを使いこなしていくことに抵抗を感じている方も多いと思います。こうした状況は変わらないでしょうか。

石見氏:コンサバティブであるという点は昔から大きく変わらないですね。日常の業務が多忙な中で、なかなか新しい仕組みに順応するという余裕がないというのが現状です。また開業医の平均年齢が50歳を超え、20%が70歳以上という高齢化も背景にはあるのかもしれません。

ヘルステックに関わる企業をつなげる“ハブ”を目指す

--こうした日米のトレンドを踏まえて「Health 2.0 Asia - Japan 2017」の見どころを教えてください。

石見氏:地域包括ケアは日本ならではのトピックスで非常に興味深い話題だと思います。また日米の「Health 2.0」ではプログラムの内容が大きく異なり、日本では製薬会社が依然としてヘルステックにおける重要なプレーヤーである点やロボティクスやVR、AIといった先端技術がヘルステックをどう進化させていくかといった点に注目していただきたいですね。

上田氏:イベントが3年目を迎えてヘルステックを取り巻くプレーヤーが揃ってきたという点が大きく、スモールサクセスも次々に生まれているほか、大手企業も次々に参入してきているという状況があります。この流れのなかで、各セッションではさまざまな製品・サービスのライブデモンストレーションを披露できる予定です。世界を代表する大手企業と新進気鋭のスタートアップ企業が並んでデモをするというヘルステックの多様性を体験できるのが、非常に興味深いと思います。

--今回はスタートアップ企業を対象にしたピッチイベントも開催します。

石見氏:すでにエントリを募集していますが、ピッチコンテストはヘルステック全般の幅広い領域のスタートアップ企業を対象にしています。メドピアとしては、この「Health 2.0」を単なるイベントの場から脱皮して、新しいビジネスが旅立つ場へと進化させたいという思いがあります。このピッチイベントを契機にしてグローバル市場へと羽ばたく企業が新たに生まれるといいですね。そうしたグローバル指向のスタートアップ企業にはぜひ参加していただきたいと思います。

 また、私自身が医師であり、またプログラム全体のスピーカーを見ても医師で起業した人が多いように、医師の起業というのは最近非常に増えています。今後、更に多くの医師が起業して成功事例、失敗事例が蓄積されていけば、この分野は更に伸びるのではないでしょうか。

--審査で重視するポイントについても教えてください。5分間でビジネスに懸ける情熱やビジネスの具体性、企業経営のスキルやセンスをバランスよく表現するのは難しいのではないでしょうか。

石見氏:ヘルスケアの領域というのは「こうなったらいいよね」という目的が明確なのが大きな特徴ではないかと思います。誰もが健康で長生きできる世界を作りたいわけです。そのシンプルな理想をどのような手段で実現するかというテーマがヘルステックの命題だと思うのですが、そこで必要なのは「情熱」なのではないかと思います。

 ヘルステックの世界にはいわゆる破壊的イノベーションというものがありません。あるべき世界を目指して大小さまざまな課題をコツコツと乗り越えていくためには、強い精神力がなければ大きい理想を掲げるだけで終わってしまいます。理想を実現するためにどれくらいの覚悟で挑むのかという点は大切ではないでしょうか。

上田氏:スタートアップの方々は、このピッチコンテストに留まらずにカンファレンスも活用してほしいですね。参加者の中には、情熱に投資したいという人も、優れたテクノロジやビジネスモデルに投資したいという人もいます。こうしたさまざまな指向をもった参加者を横につなぐことが「Health 2.0」の役割だと思うのです。お金を持っている人、技術を持っている人、情報を持っている人を結びつけるハブになることを目指したいと思います。ピッチコンテストをきっかけにして新たなつながりが生まれればいいですね。

「さまざまな指向をもった参加者を横につなぐことが“Health 2.0”の役割」
「さまざまな指向をもった参加者を横につなぐことが“Health 2.0”の役割」

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