朝日インタラクティブは9月26日、リブセンスと共催で不動産テックをはじめとする暮らしとテクノロジを巡る最新動向などを紹介するイベント「CNET Japan Conference 2017 テクノロジが加速させる“新しい街・住まい”づくり」を開催。「自動運転時代の新たなモビリティー・サービスへの挑戦」と題したセッションでは、ディー・エヌ・エー(DeNA)オートモーティブ事業本部のアソシエイトディレクターである左向貴代氏が、自動運転をはじめとする新たなモビリティが生み出す街づくりの可能性について語った。
DeNAといえば、モバイルゲーム事業やコマース事業、そしてプロ野球の横浜DeNAベイスターズというイメージが強いが、最近同社はヘルスケア事業の「遺伝子検査マイコード」やオートモーティブ事業など新事業領域に積極的に展開している。
左向氏によると、同社では現在、人工知能を中心とした技術力、パートナーエコシステムの構築、ビジネス開発のノウハウといった強みを活かし、自治体などと連携して「健康寿命の延伸」「移動革命の実現」「サプライチェーンの変革」「将来のインフラづくり」といった社会解決に注力するという中長期事業計画を掲げ、オートモーティブ事業を推進しているのだという。
具体的には、自動運転技術を活用した新しい交通サービスを2020年に実用化することを目指して日産自動車と業務提携を結び、また次世代物流サービスの開発ではヤマト運輸と共同で自動運転配達サービス「ロボネコヤマト」の実証実験を展開。またショッピングセンターなど私有地内で運用する無人運転バスの開発・運用でフランスのEasyMile社と提携し、人工知能を活用したタクシー配車アプリの事業では神奈川県タクシー協会と連携しているのだという。また、シェアリングエコノミーの領域では、個人間で自動車をシェアするカーシェアリングサービス「Anyca」、月極駐車場を1日単位で貸し借りする駐車場シェアサービス「akippa」なども展開している。
なぜ、DeNAが自動車産業や交通サービスの領域に進出するのか。左向氏はその社会的背景を語った。
そのひとつは、さまざまな社会課題を生み出している高齢化問題だ。人口に占める高齢者の割合は年々増加傾向にあり、2060年には40%を超えると言われている。左向氏は、この高齢化問題が生み出す社会課題のひとつが「移動弱者」「買い物弱者」の増加というものがあると指摘。現在すでに移動手段や日常の買い物に困る弱者は約700万人いると言われており、「高齢のために運転免許を手放したり、買い物をしても重たい荷物を運べないという人は、年々増加している。とりわけ、団塊の世代が多い都市部の買い物弱者は今後さらに増加するだろう。地方や過疎地だけの問題ではない」と左向氏は語った。
そして、高齢化問題がもたらしている社会課題が、タクシー、バス、トラックなどを運転する職業ドライバーの不足だ。その平均年齢は全産業の平均年齢と比較しても高齢化が著しく、「職業ドライバーを必要とする業界が、高齢化の煽りをまず受けるのではないか」と左向氏は指摘している。
もうひとつの社会的背景として、左向氏は人口の都市集中がもたらす社会課題を指摘。2030年には、人口の約6割は都市部に集中するといわれており、それによってエネルギーの大量消費や地球温暖化、交通事故や交通渋滞の増加といった問題が懸念されているのだという。
なかでも左向氏が強調したのは、都市部に集中する人口に伴って都市空間を占有する自動車の増加。左向氏は「自動車の稼働率は平均3%と言われており、残りの97%は都市の広大なスペースを“動かない鉄の塊”として自動車が占拠している」と語り、移動総量を維持しながら空間を合理的に活用するためにも、自動車を“所有するもの”から“シェアするもの”へと転換して自動車の稼働率を高める必要性を提言した。
「このような社会課題からモビリティの進化のシナリオを考えると、運転者は人間からロボット(自動運転)へと進化し、そして自動車そのものは所有するものからシェアするものへと進化する必要がある。私たち事業者としては、シェアリングエコノミーを推進しながら自動運転技術を追求していくというアプローチを考えている。シェアリングと自動運転をキードライバーにモビリティを変革させることが、私たちが考える社会課題の解決だ」(左向氏)。
では具体的に、どのようにモビリティの変革を実現するのか。左向氏はシェアリングと自動運転という2つのキードライバーによってモビリティを変革するためには、「さまざまなサービスの共通機能を統合して進化させるためのプラットフォームが必要だ」と説明。そして、このプラットフォームについては道路、車両、自動運転システムといった基盤技術と具体的なサービスを結びつける基盤として、クラウドによる情報やオペレーションの管理、サービス利用や課金といったUXの設計、オペレータによる対応、車両システムの制御といった役割を果たしていく必要があると説明した。
「モビリティサービスプラットフォームで求められるコアテクノロジは、私たちIT企業が得意とする検索、需給マッチング、需要予測、データ管理、決済などの機能。こういった強みを活用することで、利便性の高いサービスをエンドトゥーエンドで提供することができるようになる。こうした役割を果たすのが、人工知能を活用した配車・管制アルゴリズムとゲーム事業で培った使いやすいUIデザインという強みを持つ、私たちモビリティサービスプロバイダの役割になっていく」(左向氏)。
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