AIとビッグデータが人間の仕事を奪う?--AIに負けない働き方とは - (page 2)

AIに負けないのは“なぜ?”と問いかけができる人

 次にディスカッションのテーマになったのは「データのバイアスをどうやって取り除いていくか?」。いまや人工知能によってフェイクニュースを意図的に流すことも可能になり、「Fake News Machine」のようなフェイクニュースを作り出すことを請け負うビジネスまで存在する世の中だが、こうした人工知能によって生み出される認知バイアスへの危険性と対峙の仕方について、それぞれ次のように見解を述べた。

 「例えばSNSのユーザーインターフェースデザインにおいて、ユーザーの単位が10億人の規模になると、“いいね”のボタンをどこに配置するかだけで、人々の行動が変わり、ダイナミックに世界が変わってしまうことを教育としても大人としても学んでいかなければならない。これまではさまざまなフィルタがかかっていたものが、SNSでは直接やってくるようになり、それが人工知能の機械学習によって提示されていることで自分たちがどのように影響を受けるかと、その危険性をリテラシーとしてわかっていることが必要」(中小路)。

 「人々のバイアスを利用して購買活動を促したり、フェイクニュースが繰り返し流されると頭の中でバイアスの結びつきがでてきてしまい、あたかもそれが真実であるかのように聞こえてしまうことがある。こういうことが起きるかもしれないことを理解した上で、社会のインタラクションを作っていく必要がある」(丸山氏)。

 「ディープラーニングの特徴を考えると、論理を扱うのは相当ギャップがある。どういう心掛けをしていれば絶対AIに負けないかと聞かれれば、“なぜ?”という問いかけができる人は大丈夫だと私は答えている。どんな職業、どんな業界、どんなポジションにいる人でも“なぜなんだろう”と自問自答ができる人は、あと50年は大丈夫だろうと思っている。知識労働から知能労働への時代になっている。人間は知能で勝ちましょう」(野村氏)。


ヒトの学習とディープラーニングの違い

 人工知能の未来に対しては、3人のパネリストは一様に前向きな見方を示す。中でも“人工知能”という呼び名によって我々がテクノロジの進歩を過度に恐れるようになってしまったと指摘したのは丸山氏だ。

 「人工知能という言葉はいろんなテクノロジに使われる言葉だが、今思えば、あたかも人のように擬人化した知能というイメージを持たせてしまった意味で、最初にこの名前を付けてしまったことが不幸だったかもしれない。そうではなくて、機械学習を等身大のテクノロジとして理解して、いろいろ議論できていければと思う」。

 これを受け、「人工知能の明るい未来をもっと思い描いてほしい」と訴えるのが中小路氏だ。

 「ビッグデータは、すごいけれど悪みたいに言われることも多いかもしれないが、いろいろと楽しい未来もあると思う。例えば、病院でがんを告知される際、こんな風に言われたらこんな風に感じたという患者さんのデータを具体的にプログラムに入れ、それを機械学習させることで、このフレーズをこの順序に言うと、こんな風に感じる、ということがわかってくるとか。そうなれば、ドクターは専門的分野に集中して、伝える部分を人工知能に任せようということが可能になる。クリエイティビティはもちろんだが、イマジネーションをもって思い描くのが科学技術の発展につながっていく。今やソーシャルメディアで広がっていく時代。イマジネーションで明るい未来を描いて、その中でビッグデータをうまく活用していければ」(中小路氏)。

 野村氏も「知識というのはあっという間に陳腐化してしまうので、人間はコンピュータにあっと言う間に負けてしまう。丸暗記が得意なコンピュータに対抗するのはムダ。反面、従来の常識から考えられないことが起きたり、裏を取ったり、そのためにはどういう調べ方をしたらいいかというのを経験的にアレンジするメタ知識の駆使の仕方では、今のAIは人間に歯が立たない」と改めてコンピューターの知識と人間の知能との違いを主張し、「これからは、発想力や知識創造が大事だと言葉だけで言うだけでなく、知っている人にどうやって機嫌よく教えてもらうかというところも含めた“メタ知識”が押し並べて重要になってくると思う」と、これからの人工知能時代において、人間に求められる能力を説いた。


朝日新聞科学医療部記者の田中郁也氏

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