ゲームAI開発者として、「FINAL FANTASY XV」における人工知能をはじめデジタルゲームにおける人工知能技術の発展に従事しているスクウェア・エニックス テクノロジー推進部のリードAIリサーチャーである三宅陽一郎氏。『Ingress』や『Pokémon GO』を開発、運営しているNiantic, Inc.でアジア統括本部長兼エグゼクティブプロデューサーを務める川島優志氏。今回はお二人に「人工知能」をテーマに対談していただいた。話は「『Ingress』や『Pokémon GO』がなぜ世界中に受け入れられて大きな社会現象を巻き起こしたか」から「ゲームの真髄とは何か」にまで至り、果ては「人間とは?」「現代社会の課題とは」という壮大なテーマにまでおよんだ。
――まずはお二人の出会いから教えていただけますか。
川島氏:『Ingress』をテーマにしたトークイベントに私がこっそり参加したときに初めて三宅さんに出会いました。私は本当にお忍びで参加していたのですが、急きょ壇上に上がることになって。
三宅氏:それがきっかけとなって東京で開催されるイベントに一緒に参加したり、サンフランシスコに行った際にNianticのオフィスにお邪魔させていただき、色々な交流をしています。
川島氏:三宅さんの著書『人工知能の作り方 ―「おもしろい」ゲームAIはいかにして動くのか』も読ませて頂きました。本当に面白くて、『Ingress』の考え方にも通じる部分があるのではないかと感じました。この本で大きなテーマに掲げられているのが「身体性」、つまり人工知能は形のない知性だが、知能や知性は生物が外界との関係性を築いていくために作られているものであって、身体性と切り離して考えることができないものであるという考え方ですね。
Nianticが『Ingress』や『Pokémon GO』でやろうとしていることも実は「身体性への回帰」で、スクリーンの前ですべてを完結するのではなく、自分の足を使って実際に移動して、五感でその場所を感じるといったリアルな体験をもっと大切にすることを、ゲームを通じてどのように実現するかということです。この哲学を多くの人が体現すれば、世界は少し良くなるのではないかという気持ちでプロダクトを生み出しています。スクリーンを飛び出して、リアルな世界を自分の身体を使って冒険するというNianticのミッション「Adventures on Foot」という考え方そのものが、三宅さんが書かれている「身体性」と一致するのではないかと感じています。
実際に自分の足で歩くと、運動することが自分の身体によい影響になったり、脳が活性化されてクリエイティビティが膨らんだりしますよね。三宅さんが本に「人間の仕組みを相対的に捉えなければ、人工知能を完成させることはできない」と書かれています。身体からのフィードバックがあって、初めて完結する身体のデザインというものが実感できるわけです。まさに『Ingress』や『Pokémon GO』が実現している考え方なのではないかと思います。
三宅氏:身体のない知性というのは自然界には存在しないですよね。人工知能の初期のころはコンピュータ自体が体育館くらいの大きさで、身体性以前の問題があったわけですが、今はコンピュータの小型化、高機能化によって人工知能に身体性を持たせることが可能になったにも関わらず、知能というのはトップダウン(意識のレイヤーからはじまり身体へと変化していく)ですが、言語理解や推論といった意識のレイヤーだけが発達して、身体性のないまま人工知能が進化しているわけです。
身体性があるということは、そこに精神や自我があるということですよね。身体がなければ生存の危機や死というものはない。つまり世界に参加していないのです。身体があるから世界に参加できるわけで、『Ingress』や『Pokémon GO』がまさにそうですが、身体があるから世界に属していて知性を活用する必要があるのです。『Ingress』は自分たちのことを「エージェント」と呼びますが、それはゲームという世界の中に身体ごと入り込んでいることを意味していて、そこで自分の知性をフル活用しているわけです。自分の五感を発揮して変化する風景を歩いて移動することで、初めて知性が働き認識が生まれているという点で、『Ingress』や『Pokémon GO』は知能の本来あるべき姿ではないかと感じています。
川島氏:Niantic, Inc.のCEOであるジョン・ハンケは、西洋的な人工知性だけではなく、仏教に代表される東洋的な考え方など異なる側面からの考え方を『Ingress』で表現しているのではないかと思います。すべての生物はお互いに関係性を持っている点、どんなこともひとつの世界観の中の一部である点など、一見すると無駄に見えても全体の中では大事な意味のあることだといった考え方は、『Ingress』で実現していることだと思います。
三宅氏:西洋の人工知能は知能を対象化してサイエンスとして構築していきますが、たとえば仏教では自分自身をもって悟りを開くわけです。何らかの対象を自分自身の中に取り入れて、内面を探求していくわけです。加えて、モノは単独では存在せず、他との関係性によって初めて存在するという考え方もあります。『Ingress』はまさにそういうゲームですよね。
プレイヤー1人では成立せず、多くのプレイヤーが同じ世界で同時にプレイすることで成立するわけです。これは他のゲームではなかなか真似できません。普通は1人または少数で作られたゲームのメカニクスの中でプレイすることで成立しますが、『Ingress』は大人数が集まらないと成立せず、ユーザーの関係性とシンプルなルールの積み重ねでゲームが展開されている。『Ingress』が与えているのはユーザー同士の関係構築の場なのではないかと思うのです。
川島氏:だからこそ、そこにさまざまなドラマが生まれてきます。三宅さんが言う通り『Ingress』はユーザー同士の関係性を構築するゲームなのではないかと思います。CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
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