日本でヘルスケア系アプリの開発など、デジタル医療の動きは進んでいるが、各企業、機関が個別にサービスを展開しており、医療現場との効率的な連携が進んでいない。そこで今回は、医療現場が抱える課題に向き合い、実用的なサービスの実現を加速するデジタル医療先進国、シンガポールにおけるスマートヘルスケアの最新動向を紹介する。
シンガポールの医療現場で、デジタル技術の活用が広がりつつある。2016年以降、公立病院や民間機関から、ヘルスケア系アプリのリリースが続いており、患者やその家族と医療現場がアプリを通して情報共有をすることで、患者体験の質向上と医療現場の効率化につなげている。
主なサービス内容は、治療内容や服薬履歴、健康状態などを記録し共有したり、服用アラームを設定したりする機能で、患者の在宅医療をサポートする。また病院側は、患者からアプリで提示される詳細な情報をもとに、より適切な医療サービスの提供を目指す。
シンガポールのデジタル医療発展の背景には、同国が2014年から国を挙げて取り組んでいる「スマート国家構想」がある。医療・ヘルスケア分野においてもスマート化が進められており、各医療機関は最新のITを積極的に導入して、ヘルスケアの利便性や質を高めるためのプロジェクトを始めている。
2017年1月に、シンガポール国立大学病院(NUH)からリリースされたアプリ「NUH’s myMed」では、処方箋の記録や薬の再注文がオンラインでできる。主に高血圧症や糖尿病など慢性疾患があり、長期治療が必要な患者向けに作られている。服用時間のアラーム設定や薬の再注文を手軽にすることで、薬の受け取り忘れや飲み忘れを防ぐ。
また、薬の注文時には、国内に数カ所あるNUH提携の調剤薬局から受け取り場所を指定するか、8シンガポールドル(約650円)で自宅配送を選べる。薬の受け取りにかかる時間を短縮することで、患者らの負担を減らす。
地元紙ストレーツ・タイムズによると、2017年1月から7月までの間に、NUH提携薬局が電話やファックス、アプリを通して受け取った薬の再注文の数は約1040で、そのうちの40%がNUH’s myMedアプリからだったという。これまでに1700回以上ダウンロードされており、今後は中国語など他言語対応を充実させるなど機能を拡充し、サービスの拡大を図る。
NUHは同国唯一の大学病院で、先進的な医療サービスを提供する病院として世界的にも評価されている。そのため、同院のデジタル医療に関する取り組みの注目度は高い。
シンガポールで最大規模を誇る、政府系の婦人科・小児科専門病院KKウィメンズ&チルドレンズ・ホスピタル(KKH)が提供するのは、血友病の子どもがいる家族のためのアプリ「Zero Bleeds」だ。
血友病は、血液の凝固因子が欠乏または機能低下している病気で、出血した際に血が止まりにくく、些細なケガから命の危険に至る場合もある。主な治療法としては、定期的に血液凝固因子を注射で補充する定期補充療法があり、週に2〜3回の自己注射などが必要となる。
これまで患者らは、注射の記録や出血頻度などを手書きしたり、PCに打ち込んだりして主治医に提示していたが、同アプリを使えば、投与回数や出血頻度などをより簡単に精確に記録できる。注射時間のアラーム設定や、出血箇所やアザを撮影して医師らに意見を仰げる機能もあり、患者や家族らの在宅治療をサポートするのが目的だ。
医療従事者側にもアプリを利用するメリットはある。同意を得た患者の情報をリアルタイムに確認できるため、的確な治療につなげられるのだ。
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