ミャンマーの経済の中心地ヤンゴンは海から遠い。一番近い海岸線まででも40km以上あり、シーフードが豊富に獲れるベンガル湾やアンダマン海までだと、車で片道6~8時間はかかる。こうした地理的条件ゆえか、“ヤンゴンっ子”は海魚よりも食べ慣れた川魚を好む傾向にある。
しかし、カニだけは別。彼らは実にカニ好きだ。最近そんなヤンゴンで、Facebookを使ったカニ料理ケータリングサービスが流行している。ネット普及して間がなく、Google検索さえ知らないネットユーザーが多い“Facebook天国”ならではの現象だ。
ヤンゴンにも、さほど数は多くないもののシーフードレストランはある。特に、ベンガル湾沿いに住みシーフードをよく食べるヤカイン族の料理を扱う食堂は数年前から人気を博しており、チェーン展開する店もあるほどだ。
しかし、それ以外のシーフードレストランは外国人や一部の地元富裕層をターゲットにしており、料金がかなり高い。そこへ現れたのがFacebookで注文をとり、自宅までケータリングしてくれるサービスだ。ページの主宰者はほとんどが主婦で、レストランよりも3~4割安い価格でカニを楽しめるのが人気の秘密だ。
ヤンゴンでは2015年頃からFacebookを使った通販が普及しだした。扱う品物は服飾や食品の関係が多いが、中でも最近特に流行しているのがカニ料理のケータリングサービスだ。
人気ページのひとつ「クラビーハウス」のオーナーさんに話を聞いた。「昔からカニ料理が得意で、親戚やご近所に材料費程度で作ってあげて喜んでいただいてた。2016年の夏に娘がFacebookでカニ料理ケータリングを見つけて、『お母さんもやってみたら?』って言うので始めたところ大当たり。今は平均して1日20パックほど作っている」。
彼女の場合、海魚の卸売市場から買い付けて小売業者に卸す中間業者からカニを仕入れている。卸売市場で直接買った方が安いが、この方法だと大小さまざまなカニを一緒に買わなくてはならない。中間業者からなら、自分が作るカニ料理にちょうどよい大きさのものだけが手に入るのだという。
しかし、なぜカニ料理だけがこれほどFacebookで目に付くようになったのだろうか。
ひとつには、一般家庭の主婦がカニ料理に慣れておらず、調理法をあまり知らないということがある。同じシーフードでも、エビは川エビを食べているためが問題ないのだ。しかし、それ以上に大きいのが、もともとミャンマーの一部ビーチリゾートには、電話を使ったカニ料理のケータリングシステムがあったことだ。
ヤンゴンっ子に最も親しまれているビーチリゾートは、ヤンゴンから車で約8時間で行けるベンガル湾のチャウンターだ。近くにあるグエサウンビーチのターゲットが富裕層や外国人であるのに対し、チャウンターは庶民向け。海岸沿いには地元の人向けのゲストハウスやシーフードを出す大衆食堂が建ち並ぶ。
大衆的とは飲食店はそれなりの価格のため、主に家族連れや若者グループが利用するのがシーフードのケータリングサービスなのだ。十数年前から定着していたサービスで、ビーチでカニやシャコを売り歩く女性にそういうサービスをしている人が多い。たとえ違っても仲間を紹介してくれるだろう。中には口コミで注文が殺到し、テレビのグルメ番組でも紹介されるような人気の作り手もいる。
口コミや電話で成り立ってきたチャウンターのシーフードデリバリーサービスが形を変えてFacebookにフィットしたのが、現在ヤンゴンではやっているカニ料理デリバリーといえる。Facebookは昔からあったさまざまなサービスを次々と取り込みながら、ミャンマー独自のものへと成長しつつあるのかもしれない。
(編集協力:岡徳之)
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