このように、今では自転車天国となったオランダも、第二次世界大戦後は車中心の街づくりが行われ、自転車道があるのは一部の地域のみだった。しかし、車が普及するにつれて歩行者や自転車利用者を巻き込んだ事故が急増し、市民の不満は高まっていく。そんな中1973年の第一次オイルショックをきっかけに、市民と政府が一丸となって都市計画の方向性を変えていった。
つまり、オランダもすでにあった車中心の都市を自転車中心のスマートモバイルシティへと作り変えていったのだ。作り変えるといっても、自転車には専用線路などは不要なため、もともと片道1車線だった道路の中心線を取り払い、車の通れるスペースを狭める代わりに、自転車道を確保するという方法がとられた地域もあった(道路整備の方法は地域によって異なる)。
それでは、実際に自転車を利用する市民側はどうかというと、オランダの子どもの多くは初等教育の最終年度にVerkeersexamenと呼ばれるテストを受けることになっている。中等教育以降は自転車通学の子どもの割合が増えるため、筆記試験と実技試験から成るこのテストを通じて、子どもたち(そして周囲の歩行者や自転車利用者)の身を守ろうというのがその狙いだ。
その甲斐あってか、街中ではほとんどの人が進行方向を守り、特に混み合った場所では自転車利用者が道を曲がるときに手信号を出している様子を見かける。これは、行政からのトップダウンの施策だけでなく、車中心の都市計画によって被害を被った市民も積極的に街づくりに参加したことで、自転車中心の都市が作られていったこととも関係しているのかもしれない。
国土の約4分の1が海抜0m以下で、見渡すかぎり平地が広がるオランダと日本を比べるのはフェアではないかもしれないが、翻って日本の状況を見てみると、数年前に国土交通省が自転車利用環境創出ガイドラインを発表し、自治体ごとの取り組みもある程度成果をあげているように感じられる。
しかし、実際のデータ(PDF)を見てみると、その道程はまだまだ長そうだと分かる。その原因については諸説(PDF)あるが、東京都が2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、会場周辺や観光地の自転車道整備を一層進めていくと発表したこともあり、今後の動向に注目したい。
利用者となる市民についてはどうだろうか。国土交通省の調査(PDF)によれば、歩行者の6〜7割が歩道を通行する自転車に対して危険・迷惑と感じており、5割が自転車利用ルールの不遵守に対して迷惑・危険を感じているという。個人的な経験からも、商店街や歩道を自転車利用者が何食わぬ顔で通行し、逆に歩行者を迷惑がっているような人さえ見かけることがある。読者の中にも同じような体験をした人がいるのではないだろうか。この状況が変わらなければ、せっかくのシェア自転車も邪魔者扱いされてしまいかねない。
自転車道に関していえば、何も日本中のいたるところに自転車専用の道路を整備する必要はなく、自転車が主に利用されるのは10km以内の移動ということや、安全性の観点からも、まずは都市部での自転車道整備が急務と考えるのが妥当だろう。
市民の意識については、2015年の道路交通法改正以降、自動車運転免許の更新講習でも車両としての自転車の扱いに関する説明が行われるようになったほか、飲酒運転やスマホを見ながらの ”ながら運転” の危険性についても、メディアで取り上げられ始めたこともあり、ゆるやかであったとしても今後変化していく可能性が高い。
Mobikeやofoのサービスが本格的に始まり、街でシェア自転車を見かけることが多くなるにつれて、さらに市民の意識が変わっていくことを願うばかりだ。
(編集協力:岡徳之)
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