大量のコメントが画面上を流れるライブ授業、生徒全員がVR・MRベッドセットをつける入学式、ドラクエの世界で遠足、学園祭はニコニコ超会議――。従来の高校のイメージとはかけ離れたユニークな授業や行事を次々と企画し、新たな教育の形を提案しているのが、「ニコニコ動画」の運営会社であるドワンゴを傘下に持つカドカワが、2016年4月に開校したネットの通信制高校である角川ドワンゴ学園「N高等学校」(N高)だ。
開校から1年が経った同校には、2017年7月時点で約4000人(男女比率は約5割ずつ)もの生徒が入学しているという。「本当にたくさんの生徒がきてくれて期待度の高さを感じた」と、N高の校長である奥平博一氏は喜びを語る。奥平氏は、小学校や学習塾、通信制高校などで約30年間にわたり教育に携わり、N高の設立準備から参画している教育のスペシャリストだ。
通信制高校と聞くと、不登校などで全日制高校には行けなかった生徒が通うという、後ろ向きな印象を持つ人もいるかもしれない。しかし奥平氏は、不登校だった生徒も一定数いるものの、「入学生の約半数は高校1年生、つまり進路先の1つとしてN高が選ばれている」と説明する。日ごろからニコニコ動画を楽しんでいる生徒も多く、その運営会社を傘下に持つカドカワが立ち上げた学校であることから、自発的に説明会に参加する子どもも少なくないという。
通信制高校では、卒業資格を取得することが目的になりがちだが、N高が重視するポイントは別のところにあると奥平氏は話す。「卒業資格を取るだけでは駄目で、そのあとにどうするかが大切。N高ではプログラミング学習や職業体験など多様なプログラムを通じて、生徒が自分の特性を生かした進路を選べるようにしている」(奥平氏)。
N高では基本的に、PCやスマートフォンなどのオンライン環境で、自分のペースで学習を進める。一般的な全日制高校と比べて短い拘束時間で高校卒業資格を取ることができ、実際に学校に通うのは年5日間のスクーリングだけ。あとは、ゲームプログラマーやネイリストなど、自分がやりたいことのために時間を割ける選択式授業「Advanced Program(アドバンスド プログラム)」を受ける。
生徒には、現実の学校と同じように担任がつき、先生ごとに毎日チャットツール「Slack」上でクラスのホームルームが開かれる。参加は任意だが、先生が「おはようございます」と書き込むと、本物の教室さながら多くの生徒たちが一斉にコメントで返事をしてくれるという。生徒は担任の先生に日々の生活や学習内容についての悩みなども、Slackで個別に相談できる。「教室の中で手をあげたり、放課後に職員室に行ったりするのには勇気がいるが、チャットならすぐに相談できる。リアルよりむしろコミュニケーションを取りやすいのでは」(奥平氏)。
他にも同好会や趣味・雑談の場として、生徒が自由にSlackのチャンネルを開設して交流をしている。当初は悪意のあるコメントなども見られたそうだが、先生が小まめに対応したり、生徒同士で注意しあうなどの自浄作用が働き、今ではコメント欄が荒れるといったこともないという。
高校卒業資格を得るために必要な授業を受ける「Basic Program」では、検定教科書の大手である東京書籍が制作した映像授業を使って学ぶ。生徒はマイページからいつでも学習の進捗状況を確認できるため、次にどの単元を勉強すれば良いのか、いつまでに学習をすれば良いのかをすぐに把握できる。一定の単元まで映像学習と確認テストを終えた生徒は、インターネットで問題形式のレポートを提出し、先生に添削・フィードバックしてもらう。その後、年5日間のスクーリングで実際に面接指導やテストを受けて、単位を習得する、という流れだ。
スクーリングの参加場所は、沖縄伊計本校と全国11カ所の会場から選べる。生徒たちはスクーリング会場でクラスのメンバーと対面するが、毎日Slackでコミュニケーションしているため、打ち解けるのは早いという。「生徒同士でハンドルネームで呼び合ったり、先生と対面して『本当にいたんだ』『リアル先生だ』と言ったりしている子もいる(笑)」(奥平氏)。
スクーリングでは、さまざまな特別活動も用意している。特に沖縄本校のスクーリングでは、豊かな自然や沖縄の美しい海を満喫でき、生徒たちからもリフレッシュできると好評だという。特別活動では、沖縄諸島全域でお盆の時期に踊られる伝統芸能エイサーを習ったり、沖縄の方言で「ウージ」と呼ばれるサトウキビ農業を体験したりすることで、沖縄の文化を身をもって知ることができる。
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