パナソニックは、4月にビジネスイノベーション本部を新設。米シリコンバレーを本拠地に新たなビジネスモデル創出に向けた技術開発に取り組んでいる。注目を集める新設部署で副本部長を務める馬場渉氏が「イノベーション量産化、技術開発の取り組み」をテーマに技術セミナーを開いた。
馬場氏は前SAPジャパンのバイスプレジデントとしても知られる人物。現在はシリコンバレーに常駐し、ビジネスイノベーション本部を率いている。馬場氏は「イノベーションの“量産化”というと違和感を感じる人がいると思うが、これが非常に重要な部分。パナソニックの創業者である松下幸之助氏は、世界で生産技術を研究し、量産化のフレームワークを提供した人物。パナソニックから生まれたこの資産や技術を伝播することでモノづくりの産業は支えられてきた。これと同じことをイノベーションで起こしたい」とその重要性を説いた。
「モノづくりからコトづくりに価値が変わっていく中、技術やハードだけでは勝てないといわれている。私はモノづくりが培ってきたやり方に、コトづくりの時代に勝てるヒントがあると思っている。品質、デリバリ、量産化技術の枠組みがコトづくりにはない。天才的な起業家が起こせるイノベーションはごく一部。パナソニックに必要なのはイノベーションの量産化技術だ」と馬場氏は続ける。
パナソニックがイノベーションの量産化で描くのは「ヨコパナ」という新たなアーキテクチャだ。馬場氏は「『タテパナ』はそれぞれの事業を独立した会社と見立て、製品の開発、販売をしていた事業部制のこと。これが20世紀のアーキテクチャ。ヨコパナは、独立していた事業を横串でつなげ、クロスバリューイノベーションを実現すること。これが次の100年のアーキテクチャになる」と説明する。
それを実現するのがテクノロジ、カルチャー、デザインの3要素だ。その中の1つであるテクノロジ部分を担うのが「パナソニックデジタルプラットフォーム」だ。パナソニックデジタルプラットフォームは、すべての事業部がデジタル改革を実施する際に基礎となる部分。クラウドサービスを提供する共通基盤である「パナソニッククラウドプラットフォーム」を内包し、ここからエアコンの遠隔サービスや、外出先からテレビを視聴するサービスなどを生み出している。
プラットフォーム作りは、パナソニックに新たな付加価値を与えることができる仕組みと馬場氏はその位置付けを話す。「今までのプラットフォームは、コモデティ化したPaaS、IaaSなどが約半分を締め、IoTサービスに必要な機能は45%程度。さらに固有の価値を生む機能は5%程度の配分でしかなかった。パナソニックでは、コモディティ化する部分はパブリッククラウドを使い倒すことで対応し、付加価値を生む部分を徹底的に作り込む。ここに参戦領域がある」と具体的なパワー配分をイメージする。
現在、パナソニッククラウドプラットフォームは16事業部が採用。接続台数は180万台にのぼり、提供中のマイクロサービスは108を数える。馬場氏は「108のマイクロサービスをブロックのように組み合わせて別のサービスとしても提供できる。複数の家電製品の情報を共通基盤に蓄積することによって、使い方の様子やお客様の望みがわかってくる。それがヨコパナによるデータ分析。今ここには75億件の生活ログがたまっており、ここから新しいビジネスモデル、サービス、商品作り、コトづくりを展開している」と現状を説明した。
クロスバリューイノベーションを実現するには「IoT接続フェーズ」「ヨコパナデータ分析フェーズ」「新ビジネスモデル創出フェーズ」の3ステップで進む必要があるとのこと。しかし馬場氏は「このステップを右(新ビジネスモデル創出フェーズ)から考えなければたいていのプロジェクトは失敗する」とし、パナソニックが取り組んでいる代表的なプロジェクト「HomeX」を紹介した。
HomeXは、白物家電、住設、住宅を組み合わせて新しい住空間を提供していこうという未来の住空間プロジェクト。「住宅から白物家電、照明、映像などのオーディオ・ビジュアル機器、これだけの商品を網羅している会社はほかにはない。これらをヨコパナでつなげ、ユーザーエクスペリエンス、ハードウェアを再設計する。これをシリコンバレーで続けている。完成時期については全くの未定だが、ベータ版として出来た部分をユーザーに見てもらい、体験してもらいながら、さらにブラッシュアップしていく形で進めていきたい。一生ベータ版かもしれない(笑)」とその現状を明かした。
「テクノロジ、カルチャー、デザインの3要素で、イノベーションの量産化は可能。過去の生産技術をコトづくりの枠組みとして提供することで、お客様の感動体験を増やし、ほかの経済産業にも提供していきたい」と馬場氏は言い切った。
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