病院のベッドで寝ているところを想像してみよう。手術後で、絶対安静だ。自分でブラインドを閉めることもできず、看護師を呼ばなくてはならない。急を要する事態にスタッフ全員が慌ただしくしているときは、寒気を感じても毛布を頼みそこねてしまうかもしれないし、面会時間を詳しく聞くのも気が引ける。
無力感を抱くはずだ。
これがもし、必要なことを口に出すだけで解決するとしたらどうだろう。ブラインドはすぐに閉められる。担当医の専門について詳しく知ることもできるし、室温も上げられる。なんと素晴らしい環境だろう。必要なのは、最新のデジタル音声アシスタントだけだ。患者のリクエストを常に聞いていて、問いかけがあればインターネットに送信し、質問に回答したり、求められたタスクを実行したりしてくれる。
残念ながら、Appleの「Siri」、Amazonの「Alexa」、Googleの「Google Assistant」といった現行のスマートアシスタントで、今すぐこれを実現できるわけではない。病院で求められるプライバシーとセキュリティの要件に対応できないからだ。とはいえ、IBMの「Watson IoT Platform」担当バイスプレジデントであるBret Greenstein氏によると、一部の医療スタッフは患者の質問に答える時間が勤務時間の10%近くに達するという。昼食の献立や、担当医の資格、面会時間、そんな質問だ。スマートスピーカがそういった質問に答えられれば、医師や看護師は患者のケアにもっと時間を使えるようになる可能性がある。
こうした理由から、米ペンシルベニア州フィラデルフィアのトマス・ジェファーソン大学病院は、オーディオメーカー大手HARMAN Internationalと、IBMの人工知能(AI)技術「Watson」との提携を決めた。三者はさまざまな命令に応答するスマートスピーカを共同で開発した。患者が「Watson」と呼びかけると、気持ちを落ち着かせる音楽を再生したり、部屋の照明や室温、ブラインドを調節したりしてくれる。
「これなら患者はただ話しかけるだけで、簡単に快適な手段を得ることができる。素晴らしいことだ」。同大学病院でアソシエート・チーフ・メディカル・オフィサーを務めるAndrew Miller医師はこのように述べている。
ジェファーソン病院にとって、これは始まりにすぎない。
Amazonの人気スピーカ「Amazon Echo」と同じように、ジェファーソン病院らが開発したスピーカは、HARMANの「JBL」ブランドのスピーカに、聞き取った音声コマンドに応答するスマート機能を組み込んだものだ。
ジェファーソン病院はAmazon Echoスピーカを試してみたが、1つの管理システムで同時に複数のスピーカを制御できないことが判明した。しかも、Amazon Echoは同病院のセキュアなWi-Fiネットワークにアクセスできず、医療環境における適切な「スキル」、つまり機能を備えていなかった。
「家の中で行うような単純なことならできただろうが、われわれの病院が求める動作はこなせなかった」。同病院の最高デジタル責任者Neil Gomes氏はこのように語る。
そこで、ジェファーソン病院は2016年の終わりから、HARMANが作った5種類の試作機でテストを始めた。JBLの一般的な円筒形スピーカを外部ケースに収め、人工知能用に特別設計したコンポーネントを搭載するスピーカだ。
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