働き方改革の本質は労働時間の短縮ではない--三井不動産に聞くオフィスのあり方

 三井不動産が、働き方改革の実現に向けた事業を積極的に展開している。4月6日には、法人向け多拠点型シェアオフィスの展開を通じた働き方改革「WORKSTYLINGプロジェクト」を開始したほか、4月17日には大企業とベンチャー企業の出会いによる共創やビジネスの創出を目指すコワーキングスペース「31VENTURES Clipニホンバシ」を新装オープン。大手企業の働き方改革とベンチャー企業によるイノベーションの創出という両側面から、インフラ整備を進めている。

 今回取材したWORKSTYLINGは、ビジネスパーソンが企業に属しながら自身のワークスタイルやライフステージに合わせてワークスペースを自由に選択できることを目的に立ち上げたシェアオフィスプロジェクトで、品川、八重洲、新宿、霞が関など東京都心を中心に10拠点を開設。年内に30拠点の展開を目指しているという。利用は従量課金制で、個人によるワークスペース利用のほか、ビデオ会議システムを備えた会議室の利用なども可能だ。

 三井不動産は、企業の働き方改革に対してどのようなアプローチを考え、実現を目指そうとしているのか。これからの働き方改革の在り方やビジネス戦略について、WORKSTYLINGプロジェクトを立ち上げた三井不動産 ビルディング本部 法人営業統括二部 ワークスタイリンググループの統括である川路武氏と、プロジェクトのコンセプトやビジネスデザインを手がけたPR/クリエイティブディレクターであるThe Breakthrough Company GOの三浦崇宏氏にお話を聞いた。なお川路氏は、31VENTURES Clipニホンバシの事業立ち上げも担当したという。


右から、三井不動産の川路武氏とThe Breakthrough Company GOの三浦崇宏氏

三井不動産が4月に開設したWORKSTYLING汐留

シェアオフィス事業の背景にある“危機意識”

--まずは、三井不動産がシェアオフィス事業に注力する背景や狙いを教えてください。

川路氏:背景には大きな危機意識があるということです。ビル部門というのは、個人向け住戸販売部門や「ららぽーと」などを手掛ける商業部門に比べるとアセットも取引金額も組織も大きく歴史が長い。大きなビルを建ててそれを売ったり貸したりするというビジネスモデルは長年に渡って変わらず、イノベーションが起きにくいのです。

 一方、世の中では“×テック”でイノベーションの波がさまざまな業界に押し寄せている。テクノロジ企業が参入して多くの業界でゲームチェンジが生まれている中で、リアルなビジネスであるビル事業は“最後の砦”と思われてきた。しかし実際には、“働き方改革”という別の大きな波によって、ぐっと危機感が増してきているのです。

 このプロジェクトは2年ほど前に立ち上がったのですが、その頃はネット環境やデバイスが整ってきたことを背景にフリーランスの方を中心に“ノマド”が浸透していて、それを受けてコワーキングスペース事業というビジネスが花開いて、私も実際に、31VENTURES Clipニホンバシの立ち上げに携わりました。“どこでも働ける時代”は実はもうとっくに来ていて、ただ企業に所属する一般のビジネスパーソンの多くはまだこうした環境を活かせていないのです。

 これにはいろいろな理由があると思いますが、企業の総務人事担当がそろって思っていることは、このままでは雇用が厳しくなるということ。時短勤務、育児、介護などビジネスパーソンのニーズの多様化を考えると、“それぞれ事情の違う一人一人に9時から5時まで、本社オフィスでずっと働いてください”というルールは、大企業であっても崩れるのではないかと思うのです。そうした中、先進的な企業はすでに働き方の変革を実現しており、安定的と言われているビル事業も、これから厳しくなるのではないか。これからの時代に事業継続性を担保できるビジネスモデルは何かを考えなければいけないと感じています。

--個人向け不動産事業では“不動産テック”という言葉があるように取引の仕組みにデジタルによる変革が起きていますが、法人向け不動産の領域では顧客である企業そのものがデジタルによって変革しているということですね。

川路氏:そうですね。すると、不動産の賃貸借契約の在り方そのものも変わっていくのではないかということです。

--WORKSTYLINGの事業立ち上げについては、クリエイティブディレクターを初期から参画させている点が興味深いと思います。ファイナンスの専門家や市場環境に精通した人材であればイメージがつきやすいのですが、ここでクリエイティブディレクターを起用した狙いはどこにあるのでしょうか。

川路氏:建築デザイナーやインテリアデザイナーが果たす役割よりもクリエイティブディレクターが果たす役割のほうが大きいのではないかと感じたのが第一の理由です。このプロジェクトは、提供するワークスペース=ハードをどのように作るか以上に、中身=ソフトのほうが重要です。働き方の在り方そのものを定義しなおして、提案する試みなので。その意味ではクリエイティブディレクターがどうしても必要でした。まずは事業コンセプトのデザインを徹底してやっていきました。

三浦氏:大事な点は、WORKSTYLINGはシェアオフィスを作るのがゴールの事業ではないということです。最終的なゴールは新しい企業の働き方を作ることであって、とても大きな視野で事業を捉えている。もちろん、ハードを作る上では建築の専門家も必要で、ビジネスを作るためにはファイナンスの専門家も必要です。しかし、世の中を巻き込んでムーブメントを生み出し、企業にとっての新しい“働き方のルール”を創るためには、社会に対してどのように新しい考え方を提案し、普及していくかを考えていかなければならなかったのです。

 クリエイティブディレクターの仕事は突き詰めると“ルールをデザインする仕事”だと考えています。どうすれば普通の人の働き方がもっと自由になるか、どうすればオフィスの在り方が働く人みんなにとって過ごしやすいものになるかを考えてデザインし、アウトプットに落としていく。その結果、組織が従業員に画一的な働き方を与える既存の「WORKSTYLE」に対比する言葉として、自分らしい働き方を自分でつくっていく「WORKSTYLING」というネーミングになりました。

 また、“組織と協調しながら個人の自由な働き方を追求する場所”というコンセプトにも自然に帰結したわけです。また、ローンチに向けては建築デザイナーの方や、プログラマーの方などさまざまな専門家の意見を取りまとめて、アウトプットに反映させていくファシリテーションの役割でも協力させてもらいました。

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