NTTドコモとNTTドコモ・ベンチャーズは、社会的弱者やマイノリティが抱える社会的課題の解決に取り組む起業家を支援する「Villageソーシャル・アントレプレナー」の募集を開始した。
両社は、ベンチャー企業と協働してイノベーションの創出をめざすプログラム「ドコモ・イノベーションビレッジ」の一環として、Villageソーシャル・アントレプレナーを2016年度より実施。昨年は、発達に障がいなどを持つ子どもたちの支援をめざして活動している「のびのびと」と、超高齢少子化多死時代における地域での看取りをテーマに介護を巡る問題の解決や社会づくりをめざす「エンドオブライフ・ケア協会」を対象に支援を行ってきたという。
NTTドコモとNTTドコモ・ベンチャーズはこの取り組みを通じてどのような支援を行ってきたのか。そして2016年度に支援を受けた2つの団体はVillageソーシャル・アントレプレナーを通じて今後の取り組みに向けたどのような成果を生み出すことができたのか。NTTドコモのCSR部長である川崎博子氏、NTTドコモ・ベンチャーズの取締役副社長である稲川尚之氏、のびのびと代表理事の森垣奈穂氏、一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会の事務局長である千田恵子氏に話を伺った。
――まずは、Villageソーシャル・アントレプレナーというプログラムが生まれた経緯についてお聞かせください。
川崎氏:私たちNTTドコモには“企業の社会的責任”という大きな使命があるのですが、その社会的責任もただボランティア活動などの“社会のためにいいことをする”というものではなく、事業を通じて社会の様々な課題を解決するという方向にシフトしていきたいと考えています。その具体的な方法を模索している中で、若い力が集まって社会課題の解決をめざして活動しているような取り組みが増加していることを知り、私たちが事業の中で直接的にアクションをするだけではなく、NPO法人などのIT・インターネット活用を支援することで、より社会が豊かになっていくのではないか。ワンクッション挟む形にはなりますが、豊かな社会を下支えするような活動をドコモがやることに意義があるのではないかと考えています。このような思いがVillageソーシャル・アントレプレナーのスタートに繋がりました。
稲川氏:NTTドコモ・ベンチャーズは、ベンチャー企業とのコラボレーションを通じて新たな事業を作り、NTTドコモやNTTグループの新規ビジネス創出に貢献することを主たる目的として活動していますが、昨今地方創生や公共事業のICT化などベンチャー企業にとっての社会課題の幅が非常に大きくなってきていると感じています。これまでは新しい技術やサービスを通じて日常の課題を解決したいという取り組みに対して資金調達やパートナーシップ構築など事業継続性を担保するための支援を行ってきましたが、同じ考え方で事業継続性に繋がる支援をすれば、ベンチャー企業支援と同じ考え方で社会課題の解決をめざすNPO法人などを支援するという非常に意義のある取り組みができるのではないか。今の時代の公共事業や地方創生の流れに即していると考え、Villageソーシャル・アントレプレナーをNTTドコモと協働で行うことになりました。
稲川氏:ベンチャー企業の支援はビジネスを生み出す支援なので、ビジネスのルールやマーケティングの原理に従って「お金をどこから調達して何を売ってどれだけ儲けるのか」を考えます。一方で社会活動はこのような仕組みとは全く異なり何かを売ることもお金を儲けることもないのですが、ひとつひとつの活動をビジネスの観点から詳しく見ていくと、改善すべき点は数多く内在しているのです。このアプローチの違いが大きいと思います。特に今の時代は、若い方々が社会活動を見直して改善策を考えるようになってきている。Villageソーシャル・アントレプレナーはこうした動きにフォーカスを当てた取り組みだということができます。
――NTTドコモはこの取り組みにどのような期待をしていますか。
川崎氏:NTTドコモは日本国内で7000万回線以上のモバイルインターネットを提供していますが、この事業が継続していくためには社会が健全で持続していくことが大前提にあるわけです。その中で、まだあまり対応が進んでいない社会課題を放置しておくことは、社会の衰退に繋がり、私たちが思い描く事業の継続性も担保できなくなるのです。社会課題に真正面から取り組もうとしている団体の活動が常に沸き起こる状態は社会にとって欠かせないものだと思いますし、そのような団体が活躍できる環境を作るノウハウは、NTTドコモ・ベンチャーズがビジネスフェーズで事業の立ち上げを支援してきたノウハウとかなり近いものがあるのではないかと思います。
もちろん、ベンチャー企業と社会活動でめざすゴールは違いますが、新しいニーズを見つけ、それを形にして提供し、組織を大きくしていくという点においては共通の部分も多いです。NTTドコモがめざしているCSRの在り方とNTTドコモ・ベンチャーズが持っているノウハウには合致する部分が多いのではないでしょうか。
――CSRや社会貢献というのはすぐに効果が生まれるものではありません。その中で課題に取り組む団体がモチベーションを維持するのは簡単ではないのではないでしょうか。
川崎氏:社会活動に取り組む人々は自らが社会の変革者になりたいというモチベーションが非常に強いと感じています。(昨年は)彼女ら対してVillageソーシャル・アントレプレナーを通じて、どのようにこのモチベーションを維持して自分たちの思いを形にするかということを学ぶ場を提供することができたので、モチベーションの維持にプログラムが貢献できた部分は大きいと感じています。
稲川氏:課題意識の高さや課題の高解像化ができている人、めざす山の頂がはっきり見えている人ほどモチベーションが高く目標を実現していると感じますね。これはベンチャー企業や起業家でも同じことです。昨年の参加団体は、大きな社会課題に挑みながら、自分自身のやりたいことを想い自問自答を続けて努力していきました。モチベーションは人にもよりますが、ビジネスに取り組む人よりも強いのではないかとも感じましたね。
――確かに、モチベーションの高さというのは社会の課題解決に挑む人にとって大きな原動力になりますね。この点について、昨年のプログラムを通じてどのようなことを感じたのでしょうか。
川崎氏:昨年のプログラムを通じて感じたのは、彼らの課題意識の高さや課題そのもののリアリティ、そして課題解決に向けた使命感は非常に強いということ。一方で、彼らは組織で動いた経験が少ないということも感じました。研修では、組織で動きながら目標の実現に向かうプロセスを学ぶとともに、助成金を得るためのノウハウを学び、自分たちのゴールを研ぎ澄ますためのプロセスを進めていきました。プログラムを通じて、活動を次のステップへ進めるためのロードマップが明確になったのではないでしょうか。
稲川氏:社会起業家というのは、(ベンチャー企業における)起業家とは全く異なる存在なのです。彼らは、「私たちはお金儲けをしているわけでない」という大きなメッセージが大前提にあり、その姿勢に驚くと同時にどう対応すればいいのかという戸惑いもありましたね。
社会起業家と起業家は、課題の発掘や思い立つ瞬間は同じだけれども、そこからの成長スピードが人によって違う。また、社会起業家は課題が大きすぎて「どうしたらいいかわからないけれど、社会を変えたい」という人が多い。なかなか実働のフェイズに進まないのです。そこで私たちがメンターとして参画することで少しずつ実働に向けたプロセスを進めていくと、ビジネスと社会活動の共通点は数多く見つかったのです。つまり、ビジネスも社会活動も、活動の持続性を担保するガソリンとなるのは資金であり、アウトプットして対価をもらうというプロセスの循環であり、そのエコシステムが作ることができれば社会活動の解決に歩みを進めることができる。私たちもとても勉強になりました。
――Villageソーシャル・アントレプレナーでは“社会的弱者の支援”にフォーカスを当てています。その狙いは何でしょうか。
川崎氏:社会課題の解決が社会の健全な持続に繋がるという意味において、その社会課題の中で最も困難な思いをしている人が障がいを持っている人や経済的な困難を持った人、病気を抱えている人といった社会的弱者ではないかと考えました。彼らが抱えている様々な困難が、社会にとっての大きなテーマであるということです。
具体的には、こうした社会課題に対して体感的な実感を持っている人、そしてその課題解決に向けて強い熱意を持っている人を支援したいと考えています。こうした課題解決はすんなりとはいきません。対価を得られるような活動にまで成長させることも、周囲の協力を得ることも、実現のためには様々なハードルが存在します。それを乗り越えてブレイクスルーしていくためには、課題を体感的な実感を持って“自分事”として感じていることが非常に大きな意味を持ちますし、困難を乗り越えるための熱意が不可欠なのです。
例えば、昨年支援した2団体は、自分たちが子育てや両親の看取りの場面において「これはおかしい」「この課題を解決して社会を良くしたい」という実体験に基づく明確な課題意識と解決に向けた熱意を持っていました。
――今後の取り組みに向けた抱負をお聞かせください。
川崎氏:社会起業家の成長とNTTドコモの取り組みが平行して進んでいくことが理想だと考えています。もし私たちの取り組みに共感していただける団体があれば、ぜひVillageソーシャル・アントレプレナーの門を叩いていただきたい。このプログラムを通じて一緒に課題解決に向けて歩んでいきたいですね。
稲川氏:今まで私たちが社会起業家と接点を持っていなかったのは、彼らが私たちにアクセスするという選択肢を知らなかったという理由もあるのではないかと思います。起業家も資金調達の方法や事業創出の方法をまだまだ知らない中において、大きな社会課題に挑む社会起業家はなおのこと活動資金は助成金に頼り事業の進め方も試行錯誤しているわけです。そういう方々にこのプログラムを知っていただくことで、課題解決のためのアイデアを一緒に形にしていければと考えています。
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