2020年に実用化される「5G」--ドコモが描くサービス開始に向けた構想

 NTTドコモとNTTドコモ・ベンチャーズは1月16日、2020年に導入を予定している次世代モバイル高速通信「5G」の利活用について有識者やクリエイターが議論する「5Gで変わる未来の暮らし」と題したトークイベントを開催。NTTドコモでR&Dイノベーション本部5G推進室の室長を務める中村武宏氏が5G導入に向けたロードマップや構想について説明を行った。

5Gの普及拡大には、“ぶっ飛んだアイデア”が必要

NTTドコモの5G推進室長である中村武宏氏 NTTドコモの5G推進室長である中村武宏氏

 1980年代に使用されていたアナログ方式の移動電話を「1G」として、そこから約10年おきに世代交代を行い高速・大容量化を果たしてきたモバイル通信システムは、現在利用されている第4世代「4G(LTE-Advanced)」から更に進化を遂げ、その用途も拡大している。東京オリンピック・パラリンピックの開催を予定している2020年の5Gの実用化は、国が推進する重要政策のひとつだ。「約10年ごとに進化するというこれまでのサイクルを踏まえると、2020年の5G実用化は当初から想定されていたこと。そこに東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まった。世界に対して日本のモバイル通信技術をアピールできる絶好の機会になるのでは」(中村氏)。

 また中村氏はモバイル通信の利用シーン拡大について、「(4Gの普及によって)情報はすべてユーザーのスマートフォンに集約されるようになり、IoTの拡大によりあらゆるモノがネットに接続する時代になった。このような状況を踏まえて5Gの活用シーンを考えなければならない」と説明。5Gの普及拡大のトリガーとなる“ぶっ飛んだアイデア”の必要性を指摘した。「過去の歴史を振り返ると、各世代のぶっ飛んだアイデアは最初からあるわけではないが、新たなサービスを創出する努力は継続的に行い、より良いコミュニケーション世界を作っていきたい」(中村氏)。

  • アナログ方式から5Gまで約10年おきに通信規格は進化

  • 総務省が策定した5G導入に向けたロードマップ

5Gが目指す超高速モバイル通信のポテンシャル

 では具体的に、5Gは4Gからどのような進化を遂げるのか。中村氏によると、国際電気通信連合(ITU)やモバイル通信システムの国際標準化プロジェクト(3GPP)で世界的に合意されている通信システムの目標性能(要求条件)について説明を行った。それによると、4Gに対してユーザー体感スループットは100倍以上、最大通信速度(理論値)は10Gbps以上という高速化、4Gに対して1000倍以上の大容量化、無線区間の遅延を1ミリ秒以下に抑える低遅延化、同時接続端末数を今の100倍にするスケーラビリティの確保、そしてコストや消費電力の抑制といった点が要求条件として策定されているという。

  • 世界的に合意されている5Gの目標性能

  • 5G導入に向けたサービスのトレンド

 中でも、低遅延化、同時接続端末数の拡大は、4Gの普及拡大によって生まれたモバイル通信の新たな利用シーンや、IoT、M2Mの拡大に伴いネットに同時接続する機器が爆発的に増加していることを踏まえた進化だと言える。「これから多数の端末が通信に繋がる時代になり、それらの端末を同時に接続できる環境を整備しなければならない。またスマートフォンなどの利用シーンでは低遅延の要求はそれほどではないが、遠隔操作など特殊な利用シーンでは人間の感覚に近い数10ミリ秒以下の超低遅延を実現しなければならない。4Gでもまだ十分ではない」(中村氏)。

 中村氏は、5Gに向けたサービスのトレンドについて、コネクティッドカーに代表される交通、スマート家電、センシング技術、ウェアラブル端末、スマートホームなどあらゆるモノが無線通信でつながる世界や、ビデオストリーミングの高解像化、メガネ型端末や触感センサーのようなヒューマンインタフェースの拡大、遠隔医療などヘルスケア分野の拡充や防犯・防災など安全・安心分野のサービス拡大など、マルチデバイスやクラウドコンピューティングの活用といった従来の枠を超えたモバイル通信活用の多様化を例示した。「この5Gが目指すポテンシャルをどう活かすか夢を持って考えてほしい。2020年に向けてさまざまなイノベーションを創出していただき、5Gの高速通信を使い倒してもらえれば」(中村氏)。

実証実験をスタートし2020年の先にあるロードマップ

 NTTドコモでは2020年までに利用可能な周波数帯を利用して最大速度を数Gbpsに設定した5Gサービスの実用化を実現したのち、そこから更に機能拡張を目指していくという。同社で「5G+」と呼んでいる5Gの第二段階では、利用周波数帯の拡張やMassive MIMOなど無線技術の高度化によって最大速度を10Gbps以上に設定した高速通信を実現したいとしている。

 また展開エリアについては、2020年段階では高速・大容量化のニーズが高い大都市部や東京オリンピック・パラリンピック関連施設周辺から導入していくが、中村氏によると国は5Gの利活用のひとつに地方創生を大きなテーマとして掲げているとのことで、郊外、地方における5Gの導入も考慮していくとしている。「地方に5Gのような先進的な通信システムを導入することによって、地方創生に貢献するサービスの創出が実現するのではないか。地方を楽しく豊かにするような5Gの利活用も今後議論していきたい」(中村氏)。

  • 2020年以降に計画している5Gの進化

  • 5Gサービスの展開イメージ

 中村氏によると、2020年に向けて今年から都内に5Gの高速・大容量通信を試験的に導入する「トライアルサイト」を展開していくという。具体的には東京スカイツリー(東京都墨田区)の周辺エリアとお台場(東京都港区・江東区)エリアに試験的に5Gエリアを構築し、パートナー企業と共に5Gの活用方法を模索していくという。「東京スカイツリーには商業施設もあり、高層タワーもあり、交通網もある。こうした複合的な環境でさまざまなサービスにトライし、より良い5Gの利用シーンを開発していくことができれば。お台場エリアでは広い土地を活用してコネクティッドカーの実証実験などができれば」(中村氏)。

  • 2017年5月からスタートする5Gトライアルサイトのイメージ

  • 東京スカイツリー周辺エリアでの活用イメージ

 携帯電話・スマートフォン市場の過渡期において通信技術の優位性が先行して普及が進んできた3Gや4Gに対して、5Gは成熟した市場の中においてサービスやビジネスエコシステムに重点を置いた利活用の検討が必要だという。NTTドコモやNTTドコモ・ベンチャーズもこの点については大手企業との幅広いパートナーシップやベンチャー企業との協業によってさまざまな分野の5Gサービスを創出していきたいとしている。「今後もいろいろな業界の企業とパートナーシップを予定している。業界の垣根を越えて参画企業が集まり、“ごちゃ混ぜ”の議論ができれば、そこから凄いアイデアが生まれるのではないかと期待している」(中村氏)。

 また中村氏は、昨年NTTドコモ・ベンチャーズが開催されたアイデアソンなどの様子を紹介した上で、「将来(5G導入)に向けたアイデアといっても、多くの人は“ちょっとの工夫”で“ちょっと先”に実現できるアイデアを考えてくださる。そのようなアイデアは今日でも実現できる。実際、業界団体で検討していた構想が、米国でAmazon GOという形ですぐに実用化されてしまった。かなり"ぶっ飛んだ"アイデアを生み出さなければ、2020年代のサービスにはならない」と呼びかけ、世の中の進化のスピードを超えた従来にはないイノベーションが5Gの導入によって創出され、社会の変革が生み出されることに大きな期待を寄せた。

 なおトークショーでは、ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記氏、サイエストの広報でラーメン評論家である本谷亜紀氏、セガゲームス セガネットワークスカンパニーの取締役COOである岩城 農氏が登壇して「5Gで変わる未来の暮らし」と題したディスカッションを実施した。

  • ゲストを交えたディスカッションの模様

 「ぶっ飛んだアイデアを」という中村氏の呼びかけに応えるように、「人間の思考そのものをデジタルで記録できれば、人生をシミュレーションできるのではないか」(吉田氏)、「人気ラーメン店の味の作り方など、人間の感覚を記録して世界中にノウハウの伝承ができる仕組みができるのではないか」(本谷氏)、「VRを活用してある人の人生を追体験したり、未来の自分を体験できる仕組み、バーチャルをリアルなものとして体験できるような仕組みができるのではないか」(岩城氏)などさまざまなアイデアが披露された。一方、議論の方向性はテクノロジの進化によってユーザーの嗜好性や価値観、社会通念がどのように変化していくかに集中し、この議論を受けて中村氏は「将来に向けたサービスを考えるだけでなく、“2020年代の社会”の姿を根本的に考えていかなければならない。我々も5Gの根底部分を固めていく必要がある」と感心した様子だった。

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