この話で特に面白いのは、Googleが市場参入・浸透に際して用いた戦略。もともとはGmailやDocsを自発的に教育現場に持ち込んだ一部の熱心な支持者がいて、Googleは彼らをサポートしたり、エバンジェリストとして活用したりしながら、直接現場の教師たちを取り込んでいったという。MicrosoftやAppleが採ってきた各地の学校区(日本の教育委員会にあたるものと思われる)を通じて製品を売り込むという従来のやり方と比べると、草の根的というかゲリラ的なやり方にも思える。
NYTimes記事で多くの分量が割かれているシカゴの学区では当初、中抜きされた格好の学区のIT責任者らとGoogleの間で摩擦も生じたが、Google側でも次第に対応する要領を覚えたことで、いまでは何らかの新しいものを投入する際には先に相談するようになっているそうだ。なお、摩擦の例としては、Googleが納入に際して当初具体的な契約書にサインしたがらなかったが、学区側ではいつ中味が書き換えられるかわからないオンラインのガイドラインなど問題外として突っぱね、結果的にGoogle側が折れることになったとある。
教育現場でのGoogle製品の活用を熱心に指示する関係者がいる一方で、同社による生徒のデータの扱いや、同社のビジネスモデルに関する不透明さを懸念する声もある。
Googleでは一応「児童・生徒に対しては広告は表示しない」という方針を採っている。ただし、具体的にどんなデータを集めているのか、集めたデータをどういった目的に使っているのか、といった点は開示していない。そのため、一部の父兄などからは情報開示が不十分であるとする指摘がある。また、なかには学校から借りてきたChromebookを使って自宅で学習すると生徒の自宅の住所まで判明してしまう可能性を懸念する声も出ている。そのほか、教員や児童・生徒が無償のベータテスターとなっていることや、一部の学校では卒業時に通常版Gmailなどへのデータ移行を学校側が促す例などもあり、そうした点を問題視する声なども紹介されている。
なお、NYTimesではすでに1500万人くらいの児童・生徒が学校でGoogle製品に触れているとしている。このうちの何割くらいが大人になってもGoogle製品を使い続けるかといったデータは紹介されていないが、Googleしてもユーザー獲得のための先行投資というつもりで教育分野の取り組みを続けているとの可能性も十分考えられそうだ。
とくに予算の制約が厳しい公立学校などが低コストで管理もしやすいGoogle製品を選ぶというのは容易に想像がつく。ただ、現在の勢いが続いて事実上Googleしか選択肢がないという状態になるのもやはり好ましことではないだろう。ここはやはりMicrosoftやAppleが頑張って、競争力のある別の選択肢を用意するのが望ましいはずだが、果たしてどうなることやら。
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