障がいがある人への差別を禁止し、行政や学校での合理的配慮を義務化する「障害者差別解消法」が、2016年4月に施行されてから1年が経った。同法により、学校や受験において障がいのある学生が希望すれば、自分の能力を十分に発揮できるようにする措置を学校側がとる必要があるが、障がい学生を取り巻く環境に変化はあったのだろうか。「DO-IT Japan」の近藤武夫氏と、日本マイクロソフト 技術統括室 プリンシパル アドバイザーの大島友子氏が、障がい者教育の現状と課題を語った。
近藤氏がプログラムディレクターを務めるDO-IT(Diversity Opportunities Internetworking and Technology)Japanは、同氏が准教授をしている東京大学先端科学技術研究センターが中心となり、2007年に発足したプロジェクトだ。ITによって、障がいや病気のある小中高校生・大学生の高等教育への進学と、その後の就労への移行を支援することで、将来の社会のリーダーとなる人材を育成する活動を10年にわたり続けている。
近藤氏は大学受験を例に挙げながら、この10年で少しずつではあるが障がい者向けの配慮の事例が増えてきたと語る。たとえば、2007年には筋ジストロフィー症の生徒が国立大学の一般入試でキーボード入力による解答用紙への記入を認められた。また、2009年には脳性麻痺のある生徒が筑波大学の一般入試で数学入力ソフトを用いて受験している。2015年には読み書き障がい(ディスレクシア)の生徒が、PCによる音声読み上げを申請し、認められなかったものの、代読での受験が認められている。
独立行政法人日本学生支援機構の実態調査によれば、2016年度にAOや推薦などの特別入試を配慮を受けて受験した障がい学生は786人で、前年度よりも175人増えている。また、特別入試以外の入試で配慮を受けて受験した障がい学生は2689人で、前年度より434人増えているという。
また、マイクロソフトでもWindows PCやタブレットにおいて、幅広いアクセシビリティ機能を提供してきたと大島氏は説明する。具体的には、教科書のテキストデータをワープロソフト「Word」で読み上げる機能や、話した言葉を認識して文章化する機能、プレゼンテーションソフト「PowerPoint」で集中させたい場所にアニメーションを付けられる機能などだ。デジタルノート「OneNote」を使って、先生の話を録画して授業後に1人で学習するといったこともできる。
近藤氏は、従来の障がい者教育は、健常な生徒と同じ方法で読み書きや計算ができるように繰り返し訓練する「治療教育アプローチ」が一般的だったと語る。しかし、いくら練習をしても機能障害によって上達に限界がある生徒もいることから、治療教育アプローチに加えて、生徒がITなどの代替手段によって読み書きができるようになる「機能代替アプローチ」も推進すべきだと訴える。
これまで、教室における平等は「全員が同じ環境であること」と考えられることが多く、結果的に障がい者は特別支援学校などに行かざるを得なかった。2016年4月に前述した障害者差別解消法が施行されたことで、この状況が大きく変わりつつあると近藤氏は話す。合理的な配慮をすることが義務化され、実際に多くの学校がそうした配慮をするようになったからだ。
文部科学省も、対応指針におけるIT利用例として、試験などにおいて合理的配慮を受けたことを理由に、試験の結果を学習評価の対象から外したり、評価に差をつけたりすることを禁止した。また、入試において別室での受験や、試験時間の延長、音声読み上げ機能やタブレット端末の使用許可などを求めている。国内でも、2013年に発足した全国の80大学が参画するAHEAD JAPAN (全国高等教育障害学生支援協議会)のような、障がい者教育を支援する取り組みが急激に増えているという。
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