人工知能の「育て方」に見るマシンと人の共存、バイアスの懸念

 機械学習の仕組みが組み込まれた人工知能(AI)の一部は人間が手を貸して「賢く」してやる必要がある。そんな「AIを育てる」仕事に従事している現場の人たちを取材した記事が4月下旬にNew York Timesに掲載されていた。「AIが将来人間の仕事の何割かを奪う」といった類いの話題が目立つ中で、こうした切り口の記事は珍しく、そのせいで興味深く読んだ。今回はこの記事と、ほぼ同時期に出ていた別の記事ーーGoogleおよびYouTubeでのコンテンツ内容審査に関する取り組みに焦点を当てたWired記事を合わせて紹介しながら、AIを鍛えるにあたってどんな点に留意すればいいかなどについて考えてみる。

人間とマシンが得手・不得手で棲み分け

 NYTimes記事には、次の5人の例が紹介されている。

  • Lola(旅行代理店サービス)のエージェント
  • X.ai(アポイント調整に特化した秘書代行サービス)のUIデザイナー
  • Legal Robot(法律関連=契約書チェックなどの自動化サービス)の最高経営責任者(CEO)
  • Magoosh(オンライン受験指導サービス)のカウンセラー
  • Waymo (グーグルから独立した自動運転技術の新会社)のソフトウェアエンジニア

 この5人の中で、自分の仕事がAIにとって替わられる可能性がはっきりとあるのはLolaの旅行エージエントとMagooshのカウンセラーだろう。前者で紹介されている30歳の女性(中東での従軍経験もある元陸軍大尉)は、2015年の創業時からLolaのエージェントを務めている。彼女が「Harrison」という愛称のついたAIを鍛えることも「自分の職責の一部」と捉えているというのが面白い。

 Harrisonは人間のエージェントの仕事ぶりを観察することで仕事を覚えている(学習している)が、今のところ機転を利かして顧客の要望に対応するといったレベルには達していない。たとえば、何十とあるホテルの選択肢から一番良さそうなものを一瞬で見つけてくるといったタスク(マシンならではの計算処理能力を生かした力仕事)は得意だけれど、「ディズニーランドのシンデレラ城を背景にして、誰にも邪魔されずに記念写真を撮影したい」という家族客に対して、「中にあるレストランで朝食を予約しておくといい」といったアドバイスをすることはまだできない。ただし、たとえばリピーター客のデータから「この人はホテルの角部屋が好き」といった客本人も気づかなかった点に気づくこともあるそうで、教育係の女性エージェントは「Harrisonのおかげで、もっと創造力の必要な仕事にさける時間が増えた」とコメントしている。

 この例からは、人間とマシンとの好ましい棲み分けといった印象を受ける。教育係の女性もこれからどんどん付加価値の高い内容の仕事にシフトすることになり、いずれはHarrisonに関するエキスパートになるのではないか、といった期待も持てる。

 受験カウンセラーの場合についても、旅行エージェントと似たような前向きな(棲み分けの)印象が伝わってくる。

 Magooshのカウンセラーの女性が「(AIがどれほど賢くなったとしても)自分が仕事にあぶれる未来というのは想像できない」とコメントしている。その理由は、仕事の上でやはり機転を利かせて対応する必要がある例があまりに多いからで、最も相応しい答えを直感的に選択することはまだマシンにはできないし、特例を認める(ルールを破る)必要がある場合をマシンが判断することはまだ難しいからだという。交通ルールを厳格に守って渋滞の原因をつくったグーグルカーの例を想起させる話である。

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