インドは「人材輩出国」として日本で多くの人に知られるようになった。優秀な人材の多くは、インド工科大学(IIT)やハーバード大学、MITといったトップ大学を卒業し、Googleやマイクロソフト、ゴールドマン・サックス、マッキンゼーなど世界で高く評価される企業に就職。持ち前の英語力や理数系頭脳、ハングリー精神を生かして活躍する。
その中から、GoogleのCEOであるサンダー・ピチャイ氏や、マイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏のように、出世街道を駆け上がる人物たちも生まれてきた。近年では、急拡大するインド市場の大波に乗ろうと、母国へ帰りスタートアップを立ち上げる起業家も増加している。
そんなインドだが、実は教育システムにはまだまだ大きな問題が残されている。毎年2000万人以上の子どもが生まれるにも関わらずだ。初等教育の就学率は97%に上るとされているが、退学率も4割以上と高い。学力を十分に身につけられる子どもの割合は就学者の半数にも満たないといわれる。また高等教育機関への進学率は24%、大学不足も深刻だ。
こうした教育システムの未整備を背景に、インドで人生の選択肢を広げる機会に恵まれない子どもの数は数百万人に上ると見られる。課題は、学校設備や教師の質と数の不足、貧困、政府の腐敗など多岐にわたり、いずれも根深いものだ。
こうした教育問題の解決に取り組もうと、インドではインターネットの普及を追い風に数多くのスタートアップが生まれている。たとえば、本連載で以前取り上げたオンライン動画教育サービス「Byju’s」や、Googleの投資部門などから先日1500万ドル(約17億円)の資金を調達したインド版の公文式「Cuemath」など。
しかし、いずれも学外の補助教育を提供するところがほとんどであり、裏を返せば学校に直接サービスを売り込むのは難しいということなのだろう。そうした中、果敢にもインドの学校を改革しようと挑む日本企業がある、「すららネット」だ。
すららネットは、「世界中の教育格差を根絶したい」というビジョンを掲げ、2005年に上場企業であるベンチャーリンクの教育事業として創業。人工知能とアダプティブ・ラーニングの技術を活用したクラウド型学習教材「すらら」の開発・提供と、学校・塾向けのコンサルティング事業を展開。日本では110以上の学校、680以上の塾で導入されている。
海外では「Surala Ninja!」のサービス名で同様の事業を展開しており、たとえばインドネシアでは現地の国立大学と組み、スリランカではマイクロファイナンスの仕組みを活用して、各国で拡大を図っている。
インドでは2016年に事業を開始。当初は中学生向けのサービス提供を計画していたが、実際に中学生に一次方程式の教材に取り組んでもらったところ、想定外に正答率が低かった。それを受け、小学生向けの四則計算の教材開発からスタートすることにしたという。
インドの初等教育における問題の1つに、知識をアウトプットする機会の不足がある。プリントを作成・配布し、それを採点するのに多大な労力が教員にかかってしまうため、生徒の演習は授業中に黒板に書かれた数個の問題のみで済ませてしまうこともしばしば。問題を解く回数が少なく、学習内容の定着が難しくなってしまう。
その点、学校はSurala Ninja!を利用すれば、プリントの配布や採点が自動化されるため、教員に負担を負わせることなく、子どもたちは演習量を増やせる。インドではこれまでに460名の生徒がSurala Ninja!を利用しており、生徒や先生からのフィードバックをもとにサービス改善に取り組んでいる。
今後は、それぞれの子どもの習熟レベルに合わせた問題を出題する「難易度コントロール機能」や、間違えた問題の内容を分析してアドバイスをする「つまずき診断機能」も提供していく考え。2018年3月までに10校以上へ導入することを目標にしている。
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