村田氏は、開発した解析システムと機械学習の使用例として、中古マンションの価格が築年数やエリアによって変化する様子の視覚化データを紹介した。マンションのデータに不動産以外の別のデータを掛け合わせると、統計データ作成だけでは発見できない情報が浮かび上がり、データの利用価値が高まるとした。
ただし、「機械学習はあくまでもツール」であり、「いかにビジネスにフィットさせた形で応用するか、そのバランス感覚が重要」とまとめた。
リブセンスの芳賀氏は、同社が展開する不動産メディアサービスとして、前出のIESHILと賃貸情報ポータルサイト「DOOR賃貸」を紹介した。
DOOR賃貸は、大手の不動産ポータルや不動産会社などと提携し、約500万件の掲載物件を横断検索できるサイト。成果報酬ビジネスモデルが特徴であり、現時点で月間ページビュー数675万PV、月間ユーザー数105万UU、月間メールマガジン送信数7万通以上という実績を上げている。
一方のIESHILは、現在60万PV、20万UUで、会員数が約5万人。首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の住居用マンション約24万棟を対象として、部屋別に独自の価格査定を参照できるサイトだ。特徴の1つは、現地データを収集するなどして多種多様な「現時点で世の中にないデータ」を集め、機械学習によるリアルタイム査定を実行する機能。
IESHILは、無料で面談して不動産売買の相談に乗る「イエシルアドバイザーサービス」も提供している。実際に不動産業者へ行く前の不安をアドバイザーが解消し、会員に適した業者を最大3社紹介してくれる。ここでも、AIを使って最適な不動産業者を紹介する機能「AIアドバイザー」を活用している。
不動産紹介サービスでAIを活用しているリブセンスだが、リアルエステートテック(不動産テック)はフィンテックに比べ「まだまだこれからのサービス」と芳賀氏は述べる。不動産テックと呼べる技術を使ったサービスは2015年に多数登場したものの、イノベーターやアーリーアダプターといった「感度の高い層」にしか使われていない。こうした日本の状況と異なり、米国では不動産テック企業が盛んに活動している。
そのような進んだ米国から来日し、芳賀氏とともにイベント「テクノロジが創世する不動産産業の新潮流 ~Real Estate Tech 2016 Summer~」で講演したZillow Group産業関係担当ディレクターのBrian de Schepper氏は、芳賀氏に対して、遅れている日本の現状は20年前の米国と同じ、と話したそうだ。データ環境が整備されていないのは当時の米国も同様で、Schepper氏によると当時はデータが存在せず苦労したという。地道に環境を構築していけば、日本にも不動産テック企業であふれる時代が訪れるかもしれない。
最後に芳賀氏は、不動産営業の課題として、スタッフが集客や顧客対応に追われ、作成する書類が多いことなどの影響で、結果的に顧客対応に十分な時間が取れないことが問題ではないかと指摘した。そのうえで、IT業界のできることはたくさんあるとする。
不動産サービスでは、「顧客対応」が、スタッフつまり「ヒューマン」のもっとも大切な仕事である。そのため、ヒューマンとAIの切り分けが重要だという。そして、不動産分野でAIは、取り引き(transaction)、評価(valuation)、業務(operation)効率化の支援に活用できるとした。
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