9月28日に開催されたイベント「テクノロジが創世する不動産産業の新潮流 ~Real Estate Tech 2016 Summer~」では、不動産ビジネスが最新テクノロジでどのように変貌するかというテーマを掲げ、「Real Estate Tech」プレイヤーが一堂に会した。
同イベントの締めくくりは、基調講演「北米の不動産業界を理解する」に登壇したZillow Group産業関係担当ディレクターのBrian de Schepper氏、米国の不動産業界に詳しい日米不動産協力機構(JARECO)情報システム研究員の和田ますみ氏、そして米国で不動産データマイニング事業を展開している企業、remineの共同創業者であるJonathan Spinetto氏によるパネルディスカッション。
米国で広く利用されている不動産情報システム「Multiple Listing Service(MLS)」の概要を紹介するとともに、米国から見た日本の不動産業界について意見を述べた。モデレーターは「『RealEstateTech』で変わる国内の中古住宅流通市場の活性化」の登壇者、リブセンス不動産ユニット不動産ユニットリーダーの芳賀一生氏が務めた。
冒頭では、MLSを不動産情報システムと表現した。しかし、単なる不動産情報を交換するデータベースではなく、各地域の不動産エージェント向けメンバーシップ組織、と説明した方が正しい。
確かにMLSは、対象地域の不動産情報がすべて集約されるデータベースであるが、閲覧するには月額30ドルから60ドルといった会費を納めて加盟する必要がある。逆に、MLSに加入しないと物件情報が入手できないので、物件の取引に参加できないのだ。
会員になると、MLSの物件情報が閲覧可能になる。カバー地域の不動産情報が全会員に公開されており、売り手側の業者に関係なく、市場に出ている全物件の情報が得られる。しかも、ポケットリスティング(非公開物件)の扱いを禁じている。そのため、不動産会社の規模を問わず同じ情報にアクセスできることが保証され、透明で平等な取引が実現される。
MLSは、不動産業務支援ツールの提供とサポート、業界クオリティ向上を目的とするトレーニングといった活動も展開している。また、厳格なメンバーシップルールが定められており、違反した場合は罰金が科されたり、最悪の場合除名されたりする。
MLSから除名されると対象地域の不動産情報にアクセスできなくなり、事実上そのエリアで不動産業務の実行が不可能になってしまう。つまり、MLSは不動産エージェントにとって生命線なのだ。
MLSのなかには一部情報を消費者に公開しているパブリックMLSもあるが、基本的には不動産業者だけが利用するBtoBシステムである。その点では、国内の不動産流通標準情報システム「レインズ(Real Estate Information Network System:REINS)」と似ている。
ただし、提供されている物件情報の豊富さには驚く。物件については、間取りなどの基本情報に加え、公図、登記履歴、税金履歴などが確認できる。さらに、公的サイトなどからアグリゲーションされた洪水マップ、デモグラフィー、学校区などの情報も公開されている。近隣の物件情報、関連する国勢調査データもMLSで見ることが可能だ。
消費者は、不動産エージェント経由であるが、物件と同じくらい重視するこうした情報をまとめて得られる。不動産購入を検討している消費者にとって、MLSの有用性は極めて高い。
多彩な情報を集約するMLSだが、ITや不動産業界の進歩している米国だから実現できたのだろうか。Schepper氏とSpinetto氏によると、そうではないらしい。
やはり、米国でもデータソースやデータフォーマットはバラバラで、アグリゲーションは非常に困難だったという。例えば、裁判所に関してだけでも125種類もの記録があり、データの量と種類が多く、重複しているものも多いそうだ。
「どうしてこれほどのデータベースを作ることができたのか」という質問に対する答えは、「時間をかけて地道に構築する」になる。こうした経験から、難しいが日本でも必ず実現できるだろうと両氏は応援してくれた。
パネルディスカッションの後半で、モデレーターの芳賀氏から3氏に対していくつか質問が投げかけられた。そのなかで印象的だった問いかけは、「日本の不動産が良くなるために、まずは何が必要だと感じますか?」というものだ。
これに対し、Schepper氏、和田氏、Spinetto氏は口を揃えて「透明性」を強調した。データを共有し、透明性の高い市場を確立し、これに従った商慣行を作り上げることが重要だという。そしてSpinetto氏は、先行した米国の不動産業界はさまざまな「レッスン」をしてきたので、米国から学ぶことがたくさんあると話した。
もちろん、日本と米国では事情が異なる。米国で歓迎されたシステムだからといって、日本の不動産市場に適合するとは限らない。そうした点を踏まえれば、先進的な米国不動産業界から学べることは多いはずだ。その際には、米国を始め世界各国の不動産取引制度などを調査研究しているJARECOによる、調査レポート、教育プログラム、海外視察ツアーといったものを活用してはどうだろう。
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