Nianticとポケモンは2月23日、iOS/Android向けの位置情報ゲームアプリ「Pokemon GO」を、地方自治体が観光振興や地域活性に活用できるようにする取り組みを発表した。具体的には、「周遊マップ」を作成するテンプレートや公認素材の提供、それを利用する際のガイドラインを無償で提供する。これは、2016年8月に発表した岩手県、宮城県、福島県、熊本県の被災4県、そして京都府との観光振興連携の取り組みの一環だが、これらの県のみならず、周遊マップを作成したい地方自治体は、Pokemon GOサポートの「リクエストを送信」のなかにある「地方自治体お問い合わせフォーム」より申し込める。申し込んだ後は、ガイドラインに沿って周遊マップを作成し、Nianticの確認の後に利用できるようになる。
周遊マップは、地方自治体がおすすめしたい地域などの地図上にポケストップやジムの位置を表示させつつ、観光スポットの解説やトイレ、駐車場の位置、おすすめルートなどを掲載している。基本的には、紙での配付になる。
まずは今回の発表に伴い、京都府と福島県が全国で初めて周遊マップを公開する。2月23日に福島県須賀川市の周遊マップがオンラインで公開され、県内39市町村(須賀川市を含む)で展開予定だ。次に、京都府宮津市(天橋立)の周遊マップを3月頃に布する予定となっている。
今回の取り組みは、Pokemon GOの前身であるIngressでの経験が大きく活きている。Nianticの日本法人、ナイアンティックの代表取締役社長である村井説人氏は、「われわれは、“Adventures on Foot(歩いて冒険する)”を標榜している会社です。IngressもPokemon GOも、その場所に実際に訪れないとプレイできません。現実世界の名所旧跡や有名なモニュメントを自然と巡ることで隠れた名所を発見し、普段だとその地域の歴史や特色、見過ごされてしまう街の魅力に触れられるのです。こうした“リアルワールドゲーム”に協力してくれた、もしくは協力したい、活用したいといった地方自治体はIngressの時にも相当数いらっしゃいました。そして、Pokemon GOでそのニーズはさらに拡大したのです」と語り、そのニーズに応えるのが今回の取り組みだ。現時点で50以上の市区町村から、問い合わせがあるという。
Ingressにおけるこれまでの取り組みは、過去の特集記事を参照してほしいが、たしかに地方自治体の協力がなければ、IngressからPokemon GOにつながるリアルワールドゲームの訴求が、社会現象になるまでには至らなかっただろう。そしてIngressでは、全世界の都市(毎回開催地は変わる)で2つの陣営が勝利を目指して闘い合う「アノマリー」、初心者に遊び方などを教えるエージェント主体の全世界イベント「ファーストサタデー」、スタンプラリーのような形でポータルと呼ばれる拠点を巡る「ミッションデイ」といった公式イベントが定期的に行われているが、このような形でのリアルイベントの開催はPokemon GOにおいて非常に少なかった。しかし、今回の取り組みによって、各地方自治体が主催するPokemon GOのリアルイベントが活発になる可能性が出てきたわけだ。周遊マップ自体をコレクションするプレイヤーも出てきそうだ。
村井氏は、「“ポケットモンスター 金・銀”の舞台“ジョウト地方”で初登場したポケモンを追加するなど、もちろんゲームとしてのおもしろさを今後も追及していきます。ただし、われわれはゲームの会社ではないと思っています。私たちが作るゲームは現実と密接につながっていて、現実の場所を歩くことで遊べます。リアルに歩くのであれば、その土地の魅力も知ってもらいたいのです。普段なら見過ごしてしまうような新たな気づきや発見もしてもらいたいのです。今回はリアルワールドゲームならではの施策ということで、ゲームの楽しさへの追求だけでなく、実際のリアルな場所とも連携して、プレイヤー皆さんの“知的探求心を追求する”ことも、Nianticの趣旨になっています。地方自治体と周辺の環境と共生していくのが我々独自のやり方だと思っています」と説明した。そして、今回の取り組みによって、「Pokemon GOが第2フェーズに入りました」と表現した。
さらに、今回の取り組みではもう1つ新たな施策がある。モンスターボールをデザインした「ゴミ袋」がポケモンから地方自治体に無償で提供される。振り返れば、Ingressではプレイヤー(エージェント)が自発的にゴミ拾いをしたり、夜間の自警団のような取り組みをしたり、さまざまなムーブメントが起こった。こういったことを踏まえてのゴミ袋提供だという。
この点について村井氏は、「われわれのゲームは、“その土地で遊ばせていただいている”という面があります。IngressでのさまざまなよいムーブメントをPokemon GOでも活かしたいのです。そのため、たとえば地方自治体がイベントを開催する際にゴミ袋を配布すれば、きっとプレイヤーたちは自発的にその地域のゴミを拾ってきれいにしてくれることでしょう。周遊しながら、ごみを集めて、みんなで集まって“すごくいいよね”って感じていただけると、すごくうれしいなと思っています」とした。Pokemon GOは、拠点となるポケストップをくるくる回すとモンスターボールをはじめとしたアイテムがたくさん出てくる。このモンスターボールがデザインされたゴミ袋が集積された場所を想像してほしい。まさに、仮想世界が現実世界とリンクしたような感覚が演出される施策だろう。
今回の地方自治体向けの取り組みは日本から開始される。村井氏は、「もちろん海外でも問い合わせはありますが、日本の地方自治体からの問い合わせが圧倒的に多いですし、Ingressでは連携の実績もあります。今回のPokemon GOでの取り組みも成功体験を積み、それを海外で展開できたらおもしろいでしょう」と語った。
一方で、地方によってはポケストップやジムが少ない地域もある。しかし、これを増やすことなどまでは、地方自治体に完全に任せるわけではないようだ。村井氏は「ポータル(Ingressでの拠点)もポケストップ、ジムも、皆さんと一緒に協力してつくりたいので、地方自治体だけではなく、プレイヤーのみなさんと一緒に、歴史的建造物をピックアップしていく作業に入りたいと思っています」とした。ポケストップやジムは、基本的にIngressのポータルから成り立っている。そして、現在Ingressの高レベルプレイヤーでテストを通過した一部エージェントが参加する新しいポータル審査システム「Portal Recon」が準備中だ。参加者が新たなポータルを審査し、妥当だとされたらポータルが新設される仕組み。正式リリースについて村井氏は、「現在ベータ版が稼働中です。準備が整い次第、発表させていただきます」と説明した。
このようにPokemon GOはゲームの楽しさ、リアルワールドでの活性化など展開が急だが、Ingressはどうだろうか。村井氏は「大きさはともあれ、Ingressがわれわれのフラッグシップであることに間違いはありません。手を抜くということは絶対にありません。Ingressは出てから4年経ってるので、なにか新しい楽しみを提供できないかを模索していますし、今後もイベントなどは継続していきます」と意気込んだ。また、アジア統括マーケティングマネージャーである須賀健人氏は、「大きなアップデートが続きますから楽しみにお待ちください」としたが、その時期や内容については明言を避けた。
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