日本のロボットは労働力不足への解決策として普及しようとしているが、低賃金で豊富な労働力を抱えるインドでは、日本と異なる理由でロボットの活用が始まっている。その最先端を走るのが、インド人大学生2人によって創業されたロボットベンチャー「GreyOrange」だ。
GreyOrangeは、2011年にBITS Pilani大学のSamay Kohli氏とAkash Gupta氏によって設立された。Samay氏とAkash氏の2人は共通するロボットへの情熱で意気投合し、インド初のヒト型ロボット「Acyut」を開発。インド代表として世界中のロボットコンテストに参加し、2010年にカリフォルニアで開催された世界最大のロボット競技イベント「RoboGames」では優勝を果たした。
その後、彼らは次のターゲットとして「Eコマース」に目をつけた。インドは、2020年までにオンライン人口が現在の約3億5000万人の2倍に相当する、7億人以上にまで拡大すると予測されている。オンライン人口の増加と経済成長を背景に、Eコマースの市場規模も500~1000億ドルに達すると見込まれる。
2012年3月にはAmazonがインドの倉庫オートメーションロボット企業Kiva Systemsを7億7500万ドル(約870億円)で買収した。Eコマースサイトの顧客満足度を向上させるためには、大量の注文を低コストで正確にさばけるよう、倉庫の稼働効率を高める必要があるということだ。
GreyOrangeは2012年末、倉庫オートメーションロボット「Butler」を発表。そして、米国の大手投資ファンドTiger Global ManagementやインドのベンチャーキャピタルBlume Venturesなどから、合計約3850万ドル(約43億円)を調達し、研究開発と海外展開を推し進めている。
現在GreyOrangeが提供するロボットは2種類、前出の「Butler」と「Sorter」だ。Butlerは、発送先別に商品を詰め合わせるためのピッキング業務の自動化システム。自動搬送ロボットで倉庫内の棚をピッカーへと移動させることで、作業者がピッキングのために倉庫内を移動する時間を省く。
これまでのマニュアルシステムではピッカー1人当たり、1時間に40~80アイテムのピッキングが限界だった。それがButlerを導入することで1時間に最低でも360、最大で700のアイテムをピックでき、「9倍」もの効率アップにつながる。
また、人が荷物をピッキングするための歩行スペースが不要になることで、荷物の保管効率も50%程度向上。さらに、過去と現在の注文状況をリアルタイムで追跡し、出荷頻度の高い商品はピッカーの近くに配置するといった指示までも可能となる。
一方のSorterは、高速仕分けシステムだ。荷物に貼付されたバーコードを読み取り、商品種別や発送方法別に自動で仕分けできる。
日本は労働力が減少しているためロボットや自動化の需要が大きいが、インドは安価で豊富な労働力を抱えている。そのため、ニーズは小さいのではないかと思われるかもしれない。
しかし、インドではFlipkartやAmazon、SnapdealといったEコマース企業や物流企業の熾烈なシェア争いが起こっており、「物流」が大きな差別化要因となる。インドでは交通インフラの未整備や人材のスキル不足問題によって、商品を注文しても届かなかったり、遅延が発生したりすることが多々あった。正確かつ迅速な配達が顧客獲得につながるのだ。
GreyOrangeは現在、インド最大のEコマース企業Flipkartや物流企業DTDC、財閥企業マヒンドラなど、世界で55社以上に導入されている。インド国内では倉庫オートメーション市場で90%ものシェアを獲得しており、今後は海外売上比率を70%にまで向上させることを目指して、シンガポールや香港、中国、中東諸国へとすでに進出している。
日本市場進出にも積極的で、2016年1月には日本のクラウド型物流プラットフォームを提供するGROUNDと資本業務提携を結び、日本におけるButlerの販売開始を発表。2017年1月にはニトリグループとの間で日本で初となるButlerの納入契約が締結された。
私たちが日々便利に利用しているEコマースサイトの陰で、今後インド発のGreyOrangeのロボットたちが活躍するかもしれない。
(編集協力:岡徳之)
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