日本には西陣織や有田焼など古来から伝わる伝統工芸品がある。しかし、近年の生活様式の欧米化や大量生産品の流通によって、伝統工芸品の生産額は最盛期の5分の1にまで減少した。さらに後継者不足も深刻となり、伝統工芸品産業は危機的状況におかれている。
一方、インドではサリーが女性の普段着として着用されているように伝統工芸品はより身近だ。インドは22の公用語を持ち、宗教、文化、習慣も非常に多様で、それぞれの地域に伝統工芸品がある。経済成長を背景に伝統工芸品産業は現在も少しずつ成長を続けており、2018年には市場規模2兆円に達すると予想されている。
しかし、インドの伝統工芸品産業にも大きな問題がある。それは「過剰な中間業者」の存在だ。インドには700万人以上の職人がおり、それらのほとんどが自営業で地方に住んでいるため、自分たちの製品を販売するためには中間業者を通す必要がある。そのため、どんなに質の良い製品を作っても職人たちの収益は少なくなってしまうため、職人を辞めて転職する人も少なくなかった。
この中間業者問題を解決し、インドの伝統工芸品産業をより盛り上げようと生まれたのが、ハンドメイドマーケットプレイス「Craftsvilla」だ。
Craftsvillaは、Manoj Gupta氏とMonica Gupta氏のインド人夫婦によって2011年に創業された。きっかけは、2人がインドの地方を旅行していた際に出会った職人たちだ。旅行先のそれぞれの地域で素晴らしい伝統工芸品を作る職人たちがいたが、彼らが地元で自ら販売する際の商品価格と、都市部のマーケットで販売されている商品価格に大きなギャップがあることから過剰な中間搾取が起こっていることに気づいた。
この問題を解決すべく2人は職人と消費者を直接つなぐ伝統工芸品マーケットプレイス、Craftsvillaを提供開始した。扱う商品は職人によるサリーに代表される伝統衣装から、ネックレスや時計、クッションやベッドシーツ、さらにはオーガニック食品や化粧品など多岐に渡る。プラットフォーム上には3万2000店の販売者と500万点以上の商品が掲載されているそうだ。
CraftsvillaはこれまでにSequoia CapitalやNexus Venture Partnersなど名だたる米国系ベンチャーキャピタルから合計5450億ドルの資金調達を完了し、流通総額はFlipkartやAmazonなどに続いてインド国内ECサイト第6位となっている。
Craftsvillaがここまで成長してきた要因の1つ目は、市場選択だ。FlipkartやAmazonの取り扱う商品の多くは原価率が高く、値引き競争になるとほとんど利益が出なくなってしまうのに対して、Craftsvillaの扱う伝統工芸品は原価率が低いため、多少値引きをしてもしっかり利益を出すことができる。
2つ目にManoj氏のベンチャーキャピタル時代の経験だ。Manoj氏はCraftsvillaを創業する以前は、Nexus Venture Partnersという米国系ベンチャーキャピタルのインドチームで働いており、ソフトバンクの投資先としても有名なECサイトSnapdealを担当していた。そこでECサイトがどのように立ち上がり、何が成長の鍵となるのかを理解していた。
3つ目に信頼の構築だ。Craftsvillaのようなマーケットプレイスを成り立たせるためには、職人と消費者の両方から信頼を勝ち取る必要がある。Craftsvillaは地方の職人を自分たちの足で訪ねて回り、彼らの要望をヒアリングした。そして消費者に対してはテレビCMを放映し、信頼に足るブランドを構築しつつある。
先日Manoj氏と話す機会があったため、今後の展望と目指しているゴールについて聞いてみた。
「今後の目標は2016年中に流通総額5億ドルを達成することです。また、長期的にはマレーシアやインドネシア、中東地域へのサービス展開やプライベートブランドの発足とオフライン店舗の展開も考えています。目指すゴールは、技術力があり質の良い商品を作れるのに、貧しい生活をしている伝統工芸品職人たちを救い、社会により良いインパクトを与えることです」
(編集協力:岡徳之)
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