賃貸大手のハウスコムがデジタル活用に舵を切った理由--AI導入の効果は

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 不動産ビジネスをテクノロジによって変革させるという考え方のもと誕生した「リアルエステートテック」。2016年はFinTechと並び、既存業界のデジタル変革の1つとして、数多くのプレイヤーが躍動した。特に、2016年後半からはテクノロジ企業だけでなく不動産業界の実業企業からもテクノロジを活用したさまざまなサービスが登場してきており、この流れは今後も大きくなることが予想される。

 では、不動産会社はテクノロジに何を求め、将来にどのようなビジョンを描いているのか。不動産賃貸大手のハウスコムでサービスイノベーション室の室長を務める安達文昭氏と、技術開発で協力しているビットエーのCMOである中村健太氏、データセクション 基礎システム統括部 知能研究開発部の部長で慶應義塾大学SFC研究所の研究員である今井真宏氏と、ビジネス企画統括部/販売促進部の部長である伊與田孝志氏に話を聞いた。

左から、データセクションの今井氏と伊與田氏、ハウスコムの安達氏、ビットエーの中村氏
左から、データセクションの今井氏と伊與田氏、ハウスコムの安達氏、ビットエーの中村氏

 なお、ハウスコム代表取締役社長の田村穂氏は、2月21~22日に開催するイベント「CNET Japan Live:ビジネスに必須となるA.Iの可能性」において、「結び(musubi)~『感情のつながり』と『地域の豊かな情報』”リアルが主役”」(仮)と題する講演を行う予定。

出会いから始まったデジタルシフトが、変革のきっかけに

――まず、ハウスコムがテクノロジの活用に積極的になった経緯について教えてください。

安達氏:人工知能やAIといったテクノロジを意識し始めたのは2015年10月ごろです。当時は、インターネットで不動産取引のほとんどを完結させる無店舗型のプレイヤーが注目され始めていたので、代表の田村(同社代表取締役社長の田村穂氏)と私の2人で、それらの事業者へ行き情報交換をしました。すると、その実態は不動産業者ではなく、システム会社だったことが分かりました。

 相手の社長はもともと不動産業をしていた人なのですが、「私たちは不動産ビジネスをやりたいのではない。不動産業界はまだ閉鎖的でアナログなので、それを変えるためのテクノロジを作って不動産業界に提供することが目的だ」と語っていました。そこで、人工知能やAIといったアイデアに触れることがあり「面白いからやろう!」ということになったわけです。

 ハウスコムでは、直営店舗で年間仲介件数7万件、物件数50万件という膨大なデータを持っていましたが、そのデータの使い方をまだ知らなかった。そのビッグデータをすべてオープンにして、面白いサービスをテクノロジベンチャーと一緒に作っていこうということで、人工知能やAIといったテクノロジを積極的に活用していくことになりました。今後の脅威になりそうな競合を探りに行ったら、結果的に同業も不思議に思うようなパートナーシップが生まれたのです。

 それからの動きは非常に早く、夏ごろに協業を決めて晩秋には最初のサービス(AI検索とAIチャット)をリリースしました。

――かなりフットワーク軽くデジタル活用に舵が切れた印象ですが、社内のデジタルシフトがスムーズに進んだ要因は何だと思いますか。

安達氏:まずは代表である田村の存在が大きいと思います。ハウスコムは大東建託グループでこれまでの代表は親会社出身の者が勤めてきたのですが、田村は営業マンから出世した初の生え抜き社長で、現場を知っている人間でした。加えて、田村はイノベーションでMBAを取得しており、「不動産業は変わらずにいられるだろうか」が口癖で、ビジネスの変革に高い意識を持ち、組織作りからイノベーションに取り組んでいます。その意識は社内にも浸透してきていますね。

「不動産業は変わらざるを得ない」と安達氏
「不動産業は変わらざるを得ない」と安達氏

 世の中では、八百屋はコンビニに変わり、薬屋はドラッグストアになった。消費者の行動はどんどん変わっているのに、不動産屋だけ変わらないのです。すると、不動産屋にとって当たり前だと思ってきたことが、お客様にとってナンセンス(時代錯誤)になっていく。世の中の流れに取り残されていくのです。ここで変わっていかなければどんどん陳腐化していきますよね。そこをハウスコムが打開して空気を変えることができれば、業界全体の価値も変えることができるのではないかと思います。

 不動産屋が変わらない一方で、お客様はコミュニケーションにメールではなくLINEなどのSNSを使ったり、どんどん変わっていく。物件問合せのきっかけは100%ネット経由になり、「SUUMO」や「HOME'S」などのポータルサイトも問合せ方法にLINEやチャットを導入したりするなど変化しようとしています。このような環境に合わせて不動産業がビジネスを続けるためには、変わらざるを得ないのです。

――2016年は物件検索に対してAIがおすすめ物件をレコメンドする「AI検索」や、顧客の問合せにAIが自動的に対応する「AIチャット」を導入しました。導入後どのような効果が生まれたのでしょうか。

安達氏:まず1つは、自社ホームページに実装したAI検索では、問い合わせ件数が実装前の前年と比べて170%程度の伸びを実現し、成長を続けています。AIがレコメンドする精度はまだまだ高くはありませんが、相乗効果で通常の物件検索などにも流入が生まれ、全体のコンバージョンが高まっていますね。また、自社サイト流入の19%程度はAIのレコメンドによって成約まで至っています。

 一方で、物件情報に関する質問に自動で対応するAIチャットでは、メール問合せからの来店率が前年比で35%アップしました。お客様は夜22時以降に物件に関する問い合わせをされることが多いのですが、店舗で対応すると翌日に返信することになりますよね。その代わりにチャットボットが初期対応することで、お客様を繋ぎとめることができるのです。初めての来店だけでなく再来店率にも大きな効果が生まれていて、物件を内覧したあとに情報を再確認したいというニーズに応えているのではないかと思います。

「AIチャット」
「AIチャット」

 AIチャットを利用するには、問合せされたお客様向けの「マイボックス」という専用ページを利用していただくのですが、リリース当初は20%くらいだったマイボックスの利用者が最近では90%にまで浸透し、そのうち半数程度がAIチャットを利用しています。マイボックスでは、営業担当者がスマホのカメラを使って物件内部の映像をリアルタイムに遠隔地のお客様に見せる「オンライン内見」や、店舗との必要な書類のやり取りをウェブ経由で行えるシステムなどを導入しているため、マイボックス自体が顧客接点として不可欠なものになってきています。

――では、今後の課題は1度物件契約をした顧客の更新や、住み替えまでの数年間にエンゲージメントを維持するということですね。

安達氏:そうですね。ハウスコムは仲介専業なので、引っ越しが完了してしまうと接点が途切れてしまいます。そこでお客様を繋ぎとめて、ハウスコムを覚えていてもらうことが次の課題です。現在開発している「AI PET(エーアイ ペット)」は、まさにこのような課題を解決する手段の1つになると考えています。

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