英国でしばしば「Snooper's Charter(のぞき見の免許証)」と称される「Investigatory Powers Act(調査権限法)」が11月に成立した。英国の警察と諜報機関に、国民を監視する前例のない新たな権限を付与するものだ。
米国の「愛国者法」などと同じく、この法律もテロ対策を名目として立案された。しかし、インターネットに関する権利擁護を訴える諸団体は、英国のネットユーザーにとってプライバシーの死を意味するとして反対している。
この法律は、英国が以前から秘密裏には多少なりとも行ってきた、世界的な調査活動を合法化するもので、これにより大量のデータの収集やハッキングも可能になる。また、インターネット関連企業や電話会社には、メール、アプリ、インターネットの利用によって生じた通信データを12カ月間保管し、警察や保安当局の求めに応じて、そうした情報を提供することを義務付けている。
これによる影響と賛否双方の見解をまとめた。
支持者はこの法案について、英国の安全を守るために不可欠なものと主張している。この法案は「今後何年にもわたって、法執行機関、治安当局と諜報機関の取り組みを支えるだろう」と英国のTheresa May首相は述べている。「これは、関係機関が英国議会の民主的な承認を得て、国家と国民の安全を守る活動を実施するための許可証だ」(May首相)
Independent Reviewer of Terrorism Legislation(テロ法案の独立調査機関)が8月に実施した調査では、この「のぞき見の免許証」への妥当な代案はないことが明らかになった。同機関によると、政府は2014年のData Retention and Investigatory Powers Act(DRIPA)(データ保持および調査権限法)が12月31日に失効する前に、それに代わる法案を可決する必要があったという。DRIPAは、保安局がインターネットや電話の記録にアクセスすることを認める法律だ。
野党労働党は同法案に関して譲歩を求めたが、最終的に支持した。6月、英国下院で計444人の議員が同法案に賛成票を投じた。反対票を投じたのは、自由民主党、スコットランド国民党、イングランド・ウェールズ緑の党、そのほかのいくつかのミニ政党だけで、反対票の合計は69票だった。貴族院でも、同法案は226対186の賛成多数で可決された。
プライバシー分野の国連特別報道官であるJoseph A. Cannataci氏は同法案について「恐ろしいという言葉では表現できないほどひどい」と評し、3月には政府に「大規模監視や大規模ハッキングのような度が過ぎるプライバシー侵害の措置」を考え直すよう促した。
AppleやMicrosoft、Google、Facebook、Twitterなど米IT企業各社も英国政府に対し、法案を通過させないよう求めた。FacebookとGoogle、Microsoft、Twitter、Yahooは2015年12月、証拠書類内の共同声明で、「この法律が原因で、製品やサービスにリスクや脆弱性が紛れ込む可能性があるため、施行されれば、非常に危険な先例になるだろう」と記していた。
欧州連合離脱担当大臣のDavid Davis氏は、英国政府がこの法案の詳細の議論にこれ以上時間を費やすことを拒否したことについて、「機会の損失」と評している。
プライバシー擁護者はこの決定に対する不支持をさらに直接的に表明し、「Don't Spy On Us」(われわれを監視するな)という旗印の下に声明を発表した。Open Rights Groupのエグゼクティブディレクターを務めるJim Killock氏は同法案について、「民主主義国家より独裁国家にふさわしい監視法」と評した。
世界で最も有名な内部告発者のEdward Snowden氏は、「英国はたった今、西洋の民主主義の歴史で最も過激な監視法を合法化した。その度合いは、多くの独裁国家を上回る」と述べている。
反対派は、Snowden氏の2013年の告発と調査権限法を結びつけてきた。調査権限法の狙いは、同氏が暴露した監視活動の多くを合法化することだからだ。しかし、同法の起源は、Snowden氏の告発より前にさかのぼる。
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