東京電力パワーグリッドと、日立製作所、パナソニックは、住宅内の情報を収集、蓄積、加工するIoTプラットフォームの構築に向けた共同実証試験を11月から開始した。
共同実証試験では、東京都を中心とした関東エリアにおいて、集合住宅40戸、戸建住宅70戸を対象に、専用の「電力センサー」を設置。家電製品の種類ごとに電気使用の変化をリアルタイムに検知し、これらの情報を蓄積、分析する。
3社では、実証試験の実績をもとに、サービス事業者などに対して、これらの情報を提供することで、新たなビジネスを創出する考えだ。
東京電力パワーグリッド経営企画室新事業開発グループの中城陽氏は「データを利用するサービス事業者からプラットフォーム利用料は徴収するが、多くのサービス事業者が利用できるものを目指している。基本的な姿勢はオープンプラットフォームであること。将来的には、サービス事業者がこれを利用することで、我々が思いつかないようなサービスが創出されることを期待している」と語る。
少子高齢化や人口減少、省エネ意識の高まりなどによって、電力需要は減少すると見られており、東京電力グループとしても、託送外収益の拡大が今後の課題といえる。今回のIoTプラットフォームの構築に向けた共同実証試験は、東京電力の新たな事業創出に向けた取り組みの1つにもなる。
共同実証実験では、分電盤周辺などに電力消費量を計る電力センサーや、住宅内の温度、照度などを測定する「環境センサー」を設置し、その情報を収集する仕組みを検証する。電力センサーには、ディスアグリゲーション技術を採用。電気の使用状況を家電製品の種類ごとに算出できるのが特徴だ。
ディスアグリゲーション技術については、ソニーから分離独立した「インフォメティス」と、米シリコンバレーに本社を持つ「エンコアード」の技術を採用。インフォメティスでは、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、炊飯器、掃除機、ドライヤー(熱源機器)の8種類の家電機器に分類して電力使用量を計測。エンコアードでは、掃除機と熱源機器を除く、6種類の家電機器の消費電力を分類して計測できる。
両社の細かい技術は異なるが、いずれも電力波形の違いから、家電機器を分類して計測することになる。具体的には、一定周期でパルスが発生する特性や、冷蔵庫のようにファンが常に回転している状況を捉えるなど、家電製品ごとの電力波形の特性によって分類する。今後は、機械学習の技術進化によって、より細かく家電機器を分類することが可能になるという。
一方、パナソニックは、電力線を通信線として用いる高速電力線通信技術「HD-PLC」を活用して、住宅内機器間のネットワークの有効性を検証。日立製作所は、同社のIoTプラットフォームである「Lumada(ルマーダ)」に基づいて提供するイベントドリブンコンピューティングにより、データの蓄積および加工を行うとともに、プラットフォームの有効性を検証することになる。さらに、住宅からブロードバンド回線を利用してセンターシステムへの効率的な伝送方法も検証する。
これまでのセンサでは、高コストであったり、1時間ごとや30分ごとの計測が限界であったりしたが、今回使用する専用電力センサーでは、低コストであるとともに、電気使用の変化をリアルタイムに検知できるため、電気使用量が多いとわかれば、すぐにスイッチを切るなど、省エネなどのサービスに応用できる。
だが「これまでのHEMSでは、省エネなどを主目的としたBtoCサービスとなっていたが、今回のIoTプラットフォームは、サービス事業者を通じたBtoBtoCサービスの基盤になることを目指す。省エネ化という観点だけでなく、さまざまなサービスを創出することが目的になる」(東京電力パワーグリッド経営企画室新事業開発グループの柳達也氏)とする。
では、どんなサービスの創出を期待しているのだろうか。東京電力パワーグリッドでは、3つの事例をあげる。
1つは見守りサービスである。高齢者の一人暮らしにおける電力の使用量を見て、変化を捉えて生活をサポートするサービスだ。日常と比べて電力使用量が少ない場合、正常な生活ができていないと判断して、支援することになる。
2つめは家電製品サポートサービス。製品ごとの電力使用量の変化を捉えて、異常な電力使用などが発生した場合、故障の可能性を推測する予兆診断として利用したり、買い替え提案に活用したりといったことが可能になる。
3つめが、電気使用状況見える化サービス。家電製品ごとに使用量を分類して表示したり、電気の消し忘れを警告したり、使い過ぎを指摘したりといったサービスにつなげられるという。
「オープンプラットフォームを構築し、さまざまなサービス事業者に利用してもらうこと、見える化アプリにより、スマートフォンやタブレットで手軽にサービスを利用できること、そして、ビッグデータとディスアグリゲーション技術を活用した新たなサービス創出につなげられるプラットフォームになる。今回の実証試験段階では、サービスとの連動までは行わないが、実用化段階では、セキュリティ事業者、宅配事業者、広告配信事業者、リソースアグリゲーターといったサービス事業者との連携が鍵になる」(柳氏)としている。
電力使用量から在宅を予測し、宅配便業者が再配達をしたり、HD-PLCを活用してデジタルレコーダーの予約情報を収集。それによって、事前に視聴率を推測するといったサービスなども想定されるだろう。
また、サービス提供については、東京電力の小売電気事業部門である東京電力エナジーパートナーとの連携に加えて、他の電力会社との連携も視野に入れている。
家庭内に設置する電力センサーは、東京電力パワーグリッドが無償あるいは低価格で各家庭に提供したり、サービス事業者との連携によって普及を促進させる考えであるほか、サービスのためのシステム構築やクラウド活用においては、日立製作所が支援するといった動きも見込まれる。
なお、今回の共同実証試験では、家電製品の電力消費量が、8割の確率で分離が可能であること、センターシステムへの効率的な伝送が可能であること、将来の拡張性についての検証する予定であり、「こうした技術面での結果には自信がある」(中城氏)としている。「課題は、ビジネスモデルの構築といえる。サービス事業者に関心を持ってもらえるプラットフォームになるかといった点を検証していきたい」としている。
東京電力パワーグリッドと、日立製作所、パナソニックの3社では、2017年3月末まで実証試験を行ったあと、2017~2018年度にかけて実用化していく考えであり、「現在、2700万件の契約世帯があるが、その3分の1にあたる契約世帯での導入をまずは目標にしたい」(中城氏)という。
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