2. 移民受入の問題
GoogleやMicrosoftでそれぞれインド系のCEOが誕生していることに象徴されるように、人間の頭脳に大きく依存するシリコンバレーの各社にとって一番頭が痛いのがこの移民の問題かもしれない。実際この問題に関しては、GoogleとFacebookの各CEOあたりがTrumpの考えに異議を唱える発言をしていた。
現在では中国やインドで有力なIT企業も登場してきていることなどもあり、今後排他的な風潮が強まれば、米国に残るよりもそちらのほうがむしろチャンスが大きいと考えて、米国の学校を出たら母国に帰ってしまう留学生も少なくないかもしれない。
また、この問題の延長線上にある「社会的多様性(diversity)」に関して、たとえばLGBT擁護派として知られるTim CookやSam Altman(Y-Combinator責任者)などと同性婚などをめぐる問題で対立したり、あるいは不法入国者の子弟の支援などに力を入れるLaurene Powerl Jobsなどとも何らかの摩擦が生じる可能性なども思い浮かぶ。
3. プライバシー保護/社会秩序維持の問題
2015年の終わりからしばらく続いていたFBIによる「iPhoneバックドア設置(ロック解除)」の問題の際に、Trumpが「Apple製品ボイコット」を呼びかけていたことは既報の通り。またあの件でTim Cookに恥をかかされた格好になっていたFBIのJames Comey長官が、今回の選挙戦で土壇場になってClintonのメール問題を蒸し返し、その落選に釘を刺したとされている点も注目に値するかもしれない。いずれにしても、愛国主義といった錦の御旗のもとに暗号化やユーザーのプライバシー保護に関連する問題が改めて持ち出されることがあるかもしれない。
これら以外に、たとえばサイバーセキュリティをめぐる中国などとの問題や、ユーザーデータの取り扱いをめぐる欧州各国との問題など、外交面でのTrumpの出方も注目される。
ポピュリスト(大衆迎合主義者)とも呼ばれたTrumpを支持したのが、グローバル経済の流れから取り残された主に白人の中間層~低所得者層、とくにブルーカラーの人々だとされている。今回の選挙結果はそうした人々のルサンチマン(弱者が強者に対して抱く嫉妬・憎悪)が予想以上に激しかったということかもしれない。実際に、オハイオ、ペンシルバニア、ミシガンなどの「激戦州」でClintonは全敗したが、これらの州がかつて鉄鋼や自動車などを中心とする製造業で栄えていた場所であるのは偶然の一致ではなかろう。
こうしたTrump支持層の対極にあるのが、経済のグローバル化と情報化の流れに乗って恩恵を被ったシリコンバレーの各社や広くIT・ウェブ業界に関わる人々だとすれば、Trumpの攻撃(口撃)の矛先がこれらのグループに向かうのも自然なことという感じもする。Washinton Postの社主でもあるJeff Bezos(Amazon CEO)との確執なども伝えられているが、TrumpにとってはBezosのような有名人は攻撃しやすい相手とも感じられる(Amazonと競合するたとえばWalmartの従業員などを想定した場合)。
その一方で、シリコンバレーの一部からは、自分たちとTrumpを支持した大衆との断絶(disconnection)を懸念する声も上がっているとする話もNYTimes記事には引用されている。
Trumpが選挙戦中に使ったレトリックをそのまま公約として実現しようとするとも思えないが、同氏にはいまのところ投票した支持者しか依って立つところがない(共和党主流とも距離感がある)ので、政権運営に当たってどこまで妥協するかなど推測するのが難しい部分も多くある。「不確実性(Uncertainty)」「Unknown(未知の事柄)といった言葉が上記記事の見出しで使われているのもそうしたことの表れかもしれない。
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