「デジタル時代に即したインクの規格標準化を」──ワコムは10月27日、東京都内でイベント「Connected Ink Tokyo」を開催。同社がデジタルインク(デジタルペンで書いた軌跡のデータ)の業界標準策定のために準備してきた「デジタルステーショナリーコンソーシアム」を、米国デラウェア州で10月26日(現地時間)に設立したと発表した。
デジタルステーショナリーコンソーシアムでは、同社のデジタルインク向けミドルウェアとなるWILL(Wacom Ink Layer Language)をベースに標準を策定し、広くデジタルペンとデジタルペーパーの普及を目指すことになる。
また、その会場においてワコムは、ワン・トゥー・テン・ドライブ(以下1→10drive)と共同で、脳波と筆跡が連動して送った相手に書いたときの感情を伝えられる“感情を伝える手紙”のプロトタイプを公開した。1→10driveが開発した脳波から感情を読み取る技術と、ワコムのデジタルインクの技術を融合させ、文字を書いているときの感情をざまざまな形で表現できるようになる。
ワコム 代表取締役社長 兼 CEOの山田正彦氏は、「歴史を振り返れば人類は何かを書くことで何かを創造してきた。それを表現してきたのがインク。デジタル時代にはそれに即したインクが必要になる。そうしたデジタルインクをオープンな規格を作っていく、それがデジタルステーショナリーコンソーシアムだ」と説明した。
AppleのiPad Proシリーズ、Samsung ElectronicsのGALAXY Noteシリーズ、MicrosoftのSurfaceシリーズなど、デジタルペンをサポートするデバイスは増えている。ペンは同じ形状をしているが、実はその3つのデバイスではそれぞれペンの互換性はないため、iPad ProのペンはGALAXY NoteやSurfaceで使えないし、SurfaceペンもiPad ProやGALAXY Noteでは使えない。
また、書かれたデジタルインクのデータも、それぞれのアプリケーションが規定している状態で、MicrosoftのOneNoteで記録されたデジタルインクを、Evernoteで活用することも、その逆もできない。このように、現状ではペンの仕様も、デジタルインクも相互に互換性がないという現状になっている。
そうした互換性の問題を、デジタルステーショナリーコンソシーアムによってオープンな規格を定め、解消しようというわけだ。具体的には前者のペンの問題は、ユニバーサルペンという取り組みを行い、これまではクローズな規格として公開されてこなかった同社のペンのプロトコル(ペンとデジタイザーがやりとりする手順のこと)をライセンスとして公開する。それにより、ワコムペン互換のペンを、競合他社を含む他のベンダーが作れるようにする。
ソフトウェアの互換性問題を解決するために、WILL(Wacom Ink Layer Language)と呼ばれるミドルウェアを策定する。アプリケーションがクラウドベースでデジタルインクを管理できるようにして、異なるOS、異なるアプリケーション間で相互に互換性を確保する。デジタルステーショナリーコンソーシアムは、このWILLの知的所有権をワコムからライセンスされる形で管理し、メンバーはWILLをライセンス料などをなしに利用できる(デジタルステーショナリーコンソーシアムの参加自体には年会費がかかる)。
既にSamsung Electronicsは、9月にベルリンで行われたイベントの中で、同社がGALAXY Noteシリーズに搭載しているペン用アプリケーション“S Note”を、将来WILLに対応することを明らかにしており、Samsung自身もデジタルステーショナリーコンソーシアムに参加する可能性が高いとみられている。
ただし、現状ではデジタルステーショナリーコンソーシアムに参加する企業は公開されておらず、ワコムの山田氏によれば2017年1月に米国ラスベガスで開催されるCESに合わせて行われるデジタルステーショナリーコンソーシアムのイベントにおいて幹事企業などを含めて明らかにする予定とのことだった。
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