未来へのヒントがみつかる次世代デジタル戦略

長崎新聞配達ルートのデータMAP化プロジェクト「The Way」 - (page 2)

データの裏付けに制作したムービーが生んだ、予想以上の拡散

――まさに「今まで見たことのない」という立案段階でのテーマが形となっていますが、似たような事例にHondaインターナビの『CONNECTING LIFELINES』があります。意識された点はありますか。

 企画会議の段階で「こんな事例もありますよ」と話題にのぼりましたが、弊社が試みようとしていることとは、まったく意味合いが違う気がしています。

 Hondaインターナビの場合は震災をきっかけに「災害時にも通れる道を」と、非常に社会的価値のあることを実践されていますが、The Wayに関しては「自分たち新聞社としての価値を伝える」というコンセプトを表現する上で、最良の方法だと思います。

――話題性のある動画で拡散を狙う、バイラルムービーの動きも盛んです。The Wayではルートの可視化と同時にムービーも制作されていますが、拡散への意識はあったのでしょうか。


 創刊125周年という節目にプロジェクトを立ち上げたからには、もちろん、この企画をどう拡散させていくかは考えました。そこで「インパクトのある、世界に認められるほどの映像美」という結論に至りましたが、そもそもムービーを制作した大きな理由は、GPSによる配達経路のデータに信憑性を持たせるためです。

 どのようにデータの信憑性を裏付けるかといった話し合いから、ムービーというアイデアが生まれ、結果、ウェブメディアや新聞の業界紙にも取り上げていただけたのは、映像制作を担当してくださった映像作家・永川優樹さんのおかげです。

「長崎に行ってみたい」--拡散から図らずも認識した地域PRの役目

——ムービーには新聞が配達されていくドキュメンタリーの要素も盛り込まれ、非常にストーリー性がありますよね。個人宅への新聞配達というシステムが珍しい海外の方にも話題を呼ぶような。

 映像を製作くださった永川さんは長崎のご出身で、かつては電通の地方部で地域ブランドやローカルメディアの開発に従事していた方です。そのため長崎の美しい景色をよくご存知で、地方を美しく撮ることも熟知しています。

 長崎新聞は長崎県内でしか発行されていないので、県外にも存在を認識していただき、あわよくば海外にも……と思っていましたが、この映像のおかげで海外への拡散まで叶い、ありがたいことに「ロンドンの知り合いから『この映像、すごいね』という声が届いた」と話す社員もいます。

 さらにムービーが拡散された結果、SNSでは長崎県外の方から「長崎に行ってみたくなった」「こんな景色があるなんて」というお声をいただきました。弊社の125周年を記念した企画が、図らずも長崎をPRする機会になったというのは、予想外の反響でした。

——すると今回の施策で大きな役目を果たしている、配達員の方からの反響も大きかったのではないでしょうか。

 新しく入れ替えた輪転機のお披露目を兼ねて、長崎市内でパーティを開いたんです。各販売センターの所長さんにも出席いただいたのですが、非常にいい反応をいただきました。そこで働く人たちの道筋がリアルに示されているので、「ここはうちの販売エリアだ!」と、胸を張っていただけたようです。

アナログな伝達方法をデータ化したから見えた、新聞の強みと役割

——「コードアワード2016」では、まさに「道筋をリアルに示したデータ」を活用したという点において、データ活用の好事例を賞する「グッド・ユース・オブ・データ」を受賞されています。今回の施策から新たに見えてきたことがあれば教えてください。

 先ほども申し上げましたが、弊社の新聞がどのように配られているのか、ここまで全体的に、そして細かく把握できたのは初めてのことです。このデータから、どこの地域が弱いかあらためて知ることができ、強化地域を見定める大きな指針になり得ます。もし、また10年後の記念イヤーに同様のデータを取ったとしたら、光の線がどのようになるのか非常に興味深いです。

——10年後にもつながりうるエリアマーケティングの可能性を感じられたわけですが、The Wayで実施したデータ採取は継続されるのでしょうか。

長崎新聞社東京支社 赤司満男氏(左)、カケザン クリエイティブプランナー 新野文健氏(右)
長崎新聞社東京支社 赤司満男氏(左)、カケザン クリエイティブプランナー 新野文健氏(右)

 今回の企画に関しては一段落ですが、「The Way」の予想以上の反響を受け、たとえば5年後、10年後の記念イヤーには、また切り口を変え、地元長崎をPRできるような企画を打ち出せればと考えています。

 と言うのも、今回の施策を通して改めてデジタルの強さを痛感しました。それはSNSによって情報が行き渡る、圧倒的な距離と人数です。その一方、裏を返せばと言いますか、長崎県内でしか発行されていない新聞だからこそ、コアな地域に情報を確かに届けるという弊社の強みを再確認することにもなりました。

 ご老人や子どもたちを始め、デジタルを得意としない人たちは、まだまだ存在します。紙媒体の衰退が叫ばれる昨今、新聞というメディアがどうなっていくか、正直、私たちにも分かりません。けれど、デジタルに触れていない人にも情報を届けられるという強みをしっかり認識しながら、紙媒体とデジタル媒体が一緒に手を携え、すべての人をカバーしていく情報伝達を考えていかねばならない。そう考える機会を得た気がします。

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