未来へのヒントがみつかる次世代デジタル戦略

長崎新聞配達ルートのデータMAP化プロジェクト「The Way」

 スマートフォンを中心に、オムニチャネルやIoTなどの次世代テクノロジを通じて生み出されるデジタルマーケティング戦略。そこにはアイデアやクリエイティビティが不可欠だが、それだけでは「これまでになかった体験」を提供することはできない。ユーザーに新たなエクスペリエンスを届けるために、欠かせない普遍性や本質とは何か。

 この連載では、デジタルを活用したコミュニケーション施策を発信する「コードアワード」に寄せられた作品から、デジタルマーケティングの「未来」を拓く“ヒント”をお届けする。

 今回、取り上げるのは「コードアワード2016」において「グッド・ユース・オブ・データ」を受賞した、長崎新聞社による「長崎新聞配達ルート データMAP化プロジェクト『The Way』」。県内に根を張る配達員に配布されたGPSから配達経路の走行データを収集し、地図上に集約・配置して可視化するという企画だ。

長崎新聞配達ルート データMAP化プロジェクト「The Way」
長崎新聞配達ルート データMAP化プロジェクト「The Way」

 日本でもっとも離島が多く、複雑な交通網を抱えるという長崎。その地図の隅々にまで行き渡るデータの線と、合わせて制作されたストーリー性あるムービーが話題を呼んだが、言うまでもなく長崎新聞は、デジタルメディアの対極とも言うべき紙媒体だ。

 このレガシーな紙媒体を扱う企業が、データを活用したデジタル施策にチャレンジした理由、そして、その挑戦から何が見えてきたのか、長崎新聞社東京支社で営業を担当する赤司満男氏に聞いた。(聞き手は株式会社カケザン クリエイティブプランナーの新野文健氏)

もっとも古い伝達方法を、もっとも新しい伝達方法で表現する

――すべての新聞配達ルートを可視化した「The Way」ですが、立案の背景や狙いから教えてください。

赤司満男氏
長崎新聞社東京支社 赤司満男氏

 2015年に弊社は創刊125周年を迎え、同時に輪転機を新しく入れ替えました。新聞社にとって輪転機とはもっとも重要な存在。設備投資としても大きな区切りでしたので、「このタイミングで何かしましょう」というのが企画のスタートです。

 では、何をしようかと議論を重ねる中で、20個、30個と、いろいろな企画が出てきました。しかし、どこかで見たことのある企画だったり、そもそも新聞社がやらなくてもいいような企画だったりと、どうにも腑に落ちなかった。

 その中で、The Wayとして形になったアイデアは、新聞社として、まずもってどこもやったことがない企画ということ。そして配達という、これまで百何十年と続けてきた新聞社としての価値を再確認、再認識するのにふさわしい企画ということ。大きく、この2つが採用の決め手となりました。

――そうした記念イヤー(Year)に、いわゆる紙媒体をやられている企業がデジタルを活用した施策を展開するというのは、非常にチャレンジングな試みですよね。

 「コードアワード2016」の贈賞式でもお話ししましたが、毎日、いわば足で新聞を配っている新聞社が喫緊の課題としているのが、なかなかデジタル化が進まないことや、デジタルコンテンツに乏しい点です。ですからおっしゃる通り、非常にチャレンジングな試みです。

 しかしチャレンジングな分だけ、今までどこの新聞社もやったことのない、誰も見たことのない試みでもあります。また、新聞を手と手で繋いでいくという一番古い伝達方法を、今、もっとも新しいデジタルな方法で表現することによって、何か新しい価値が見えてくるのではないかという期待感もあり、この企画に着地しました。

GPSデータが描き出した、複雑な地形を有する長崎だからこその配達網

――アナログな伝達方法を、最新の伝達方法で表現する。とてもロマンチックな企画ですが、実現のためにどれほどの規模の方が携わったのでしょう。

 長崎県内全域に根を張る配達員の方たちにGPS端末を持っていただき、彼らのルートデータを可視化したわけですが、県内に配達拠点となる販売センターが148カ所あり、2285人の配達員がいます。配達員だけでなく、本社の人間も関わっていますから、2500人以上の人たちに協力を仰ぎました。

 ただ、さまざまな制約があり、用意できたGPS端末は150台。2285人の配達員の方に、どう150台のGPSを配るかは正直悩みましたが、結果40日間という期間を設け、全員にGPSを持って配達いただいた形です。

――そうした制約の中でも、リアルな配達経路を計測することにこだわったんですね。

長崎新聞

 リアルという点には非常にこだわりました。今回、最新のGPS端末を使用しましたが、それでも天候が悪くて計測できないケースや、地形上、データが得づらい場所は発生してしまいます。その場合は再度、日を変えてGPSを持って配達いただいたり、どうしてもデータが得られなければ早朝ではなく、時間帯を変えていつもと同じ経路を、いつも通りの形で動いていただいたりと、The Wayで示された線は、確実にGPSのデータに基づいています。

 一筋縄にはいきませんでしたが、実はこれも長崎県ならでは。長崎は山が多いだけでなく、日本でもっとも多くの離島を抱えています。さらに私自身、この施策を通して知ったことですが、実は日本で一番、北海道以上に海岸線が長いんです。そのため、船で新聞を運ぶ地域もあり、地形の特性があってこそ、とても面白い線を描いています。また、「我々の新聞は、こんな風に配られていたんだ」と、私たち社員もあらためて認識する機会となりました。

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