パシフィコ横浜で8月24日から3日間開催されたゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2016」(CEDEC 2016)。8月25日には、東京のお台場にて運営されている仮想現実(VR)を体感できる施設「VR ZONE Project i Can」に関する「『VR ZONE Project i Can』の知見、全部吐き出します!」と題したセッションが開催された。
同施設は、バンダイナムコエンターテインメント開発のさまざまなVRアクティビティが楽しめる施設として、4月から10月10日までの期間限定で運営されているもの。完全予約制やお台場という立地など低くないハードルがありながら、連日予約で埋まっている状態が続いており、高い人気を誇っている。
このセッションではタイトル通り、施設展開の経緯や運用を通じて得られた知見などが披露された。登壇したのは同施設やVR展開の中心人物である“コヤ所長”こと、バンダイナムコエンターテインメントAM事業部エグゼクティブプロデューサーの小山順一朗氏と、各アクティビティのディレクションなどを担当した“タミヤ室長”ことAM事業部企画開発1部プロデュース1課マネージャーの田宮幸春氏。
小山氏は1990年代初期からゲームセンターやテーマパーク向けの体感型ゲーム開発に携わり、またVR開発本部に籍を置きVRに関する研究もしてきたという。当時のVRゴーグルは解像度や画角、追従性に問題があったため、さまざまな手法を用いて異なるアプローチから仮想現実の世界を伝える体感型ゲームを開発してきたと振り返る。「ガンダムに乗って操縦する」という願望をかなえるような、ドームスクリーン型筐体の「戦場の絆」のプロジェクトを立ち上げヒットに導いたのをはじめ、「湾岸ミッドナイトマキシマムチューン」やアーケード向け「マリオカート」など体感型ゲームの定番とも言えるレースゲームから、アイドルをテーマとした人気コンテンツ「アイドルマスター」シリーズの初代作であるアーケード版プロデューサーを務めるなど、意欲的な作品も世に送り出している。
田宮氏も「ドラゴンクロニクル」シリーズのディレクターをはじめ、さまざまなアーケード向けタイトルに携わった後、このプロジェクトに合流。自身の趣味のひとつに手品があり、人を驚かせて楽しんでもらうという観点において、手品の趣味は少なからずともVRアクティビティの企画開発では役立ったと振り返る。
冒頭では「なぜVR ZONEをはじめたのか」が語られた。小山氏はこれまでもメディアなどでその理由などを語ってきたが、本音のところとして「VRエンタメで世の中を沸かせてみたい、可能性を追求してみたい」という心情からきていることを明かした。これまでもVRを研究しさまざまな体感型ゲームを生み出してきた同氏としては自然な流れである一方、経営陣の取締役クラスの多くは、小山氏が「VR絶望時代」と称するような90年代のVRバブルを見てきている世代でもあるため、VRに対しては懐疑的。こうした状況もあり、経営陣を説得するには、VRエンタメが一般的な消費者にも受け入れてもらえるものであること、そして人気と利益を生み出す可能性があることを実際に証明するしかないと考えたという。
ターゲットとしたのは、小山氏いわく「リア充グループ」。VRをはじめとする最先端テクノロジーに興味がある人ではなく、みんなで遊んだり日々の出来事をSNSでシェアしたりするのが好きな18~30代の男女に据えた。またVRエンタメは新しい価値の概念であるということと、こうした人々から対価を得るという観点から、ゲームセンターにおける「ゲームは1プレイ100円」の概念もリセットし、それなりの料金設定を行った。
完全予約制をしいたことについて、小山氏は「VR未体験の人が何をするかわからない」と、オペレーションをコントロールするためには必要だったとし、場所がお台場になったのは「短期間で条件に合う場所がなかなか見つけられず、空いていたのがお台場だった」としている。
結果的に「VRに関心のないリア充男女に事前予約をしないと入れない施設で、しかも場所は観光客が多いお台場」と、これだけでもハードルが高い上に「平日でも来店してもらい3000円以上利用してもらうこと」を目標に掲げた。そしてこれをクリアできるのであれば、VRエンタメの可能性を無視できないと思ったと振り返る。
また、バンダイナムコグループは豊富なキャラクターコンテンツなどのIP(知的財産)を有しているが、初期段階では有力IPを活用したアクティビティを用意しなかった。それは、体験のテーマが魅力なのか、IPの魅力にひかれた人気なのかがわからなくなるため、IPの活用は避けたとしている。
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