7月末から8月頭にかけて、大手携帯キャリア3社の第1四半期決算が発表された。NTTドコモは社長が交代し、ソフトバンクグループは英ARMを買収する一方、8月2日には公正取引委員会がスマートフォン販売慣行の是正を求める報告書を出すなど、業界に大きな変化が起きている。そうした中、各社のトップは何を話したのだろうか。3社の決算説明会を振り返ってみよう。
7月28日に決算を発表したソフトバンクグループの連結業績は、営業収益が前年同期比2.9%増の2兆1265億円、営業利益が0.2%増の3192億円。引き続き増収増益ではあるが、その伸びは弱まっているようだ。
もっとも今回の決算においては、業績の内容よりも、英国の半導体設計大手であるARMの買収が大きなトピックとなっていたことは間違いない。ソフトバンクグループは7月18日に、ARMを約3.3兆円と、ボーダフォン日本法人や米Sprintを買収した時より大きな金額で買収し、子会社化すると発表。代表の孫正義氏は「9月くらいには全体の手続き買収が終わるのではないか」と話しており、買収後は通信事業に並ぶソフトバンクグループの中核事業とする方針を示している。
孫氏はARMの買収について、IoTの広まりによってARMの技術を採用したチップセットの販売の拡大を見込んでおり、「絶対額はうなぎ登りに上っていく」と話す。それゆえARMに対しては、目先の利益を追うよりも、より先を見越して一時的に利益を減らしてでも、技術者の獲得や研究開発に向けた投資を増やすべきだと話しているという。
一方で孫氏は、純有利子負債に対するEBITDAの倍率が、M&Aでは一般的な4.4倍程度であること、そして純有利子負債が7.1兆円であるのに対し、ソフトバンクの通信事業以外の保有上場株式を売却すると9.1兆に上ることから、「私に言わせれば実は無借金」と話すなど、今回のARM買収で負債が拡大するのではないかという懸念や不安を払しょくすることに力を注いでいた。Sprintの再建途上にあって、再び巨額買収を実施したことに対する不安は大きいだけに、この点は孫氏も丁寧に説明し、ケアを図っていたようだ。
また今回のARMの買収に関しては、既存の通信事業などとのシナジーが見えにくいとの声も少なからず上がっている。この点について孫氏は、「シナジーが見えていないのがいい。シナジーが見える会社は独占禁止法に引っかかるし、見えない会社は手が出しにくい。だからこそ無風で買いに行ける」と、手の内は明かさないものの今後のシナジーを見越した買収であると話した。
ARMの買収直後だけに、その点が大きな注目を集めがちだが、ソフトバンクグループが現在抱えている大きな課題は、Sprintの再建であることに変わりはない。だが孫氏は、「今まで足を引っ張ってきたSprintの業績が著しく改善してきている。将棋の『と金』のように、利益貢献する側に転換できる目途が付いた」と話し、見通しが明るくなってきたと説明する。
その理由は、ポストペイド携帯電話の純増数がプラス17万と過去9年で最大の伸びを記録したほか、2年前は2%台だった解約率が、1.39%にまで改善するなど、底打ち反転の目途が立ったことが大きいようだ。調整後のフリーキャッシュフローもマイナスが続いていたのが、プラス5億ドルへと改善し、通期で黒字の可能性も見えてきたと孫氏は話す。裏を返せば、Sprintの改善に目途が立ってきたことが、孫氏をARMの買収へと突き動かしたと言えるだろう。
孫氏はこれまで、1日のうち50%の時間を、ネットワーク設計を主体としたSprintの再建に費やしてきたと話す。だが、Sprintの業績改善に加え、今回ARMを買収したことで、Sprintに費やす時間は5%減らし、Sprintと同じ45%をARMの中長期戦略に費やすとしている。それ以外の事業については、国内事業はソフトバンク代表取締役社長を務める宮内謙氏に、海外投資はソフトバンクグループ取締役のロナルド・フィッシャー氏に権限を委譲し、孫氏がかける時間配分を減らしていくとのことだ。
実際、今回の説明会でも、6月に突如辞任した前副社長のニケシュ・アローラ氏が力を入れていた投資事業に関する説明は大幅に減少。また国内通信事業について質問が及んだ際、孫氏はソフトバンクモバイルとワイモバイルに関して誤った説明をし、宮内氏に訂正される一幕が見られるなど、ARMとSprint以外の事業に関する関心が落ちていることを見て取ることができる。
特に国内の通信事業は、大きなキャッシュフローを生む重要な主力事業であり、いまなお高い関心を集めているにも関わらず、新戦略を発表する機会が減っており、同社の戦略や方向性が見えにくくなっている。孫氏がソフトバンクの第一線を退いたのであれば、宮内氏が国内向けの戦略を語る場が必要になってきているのではないだろうか。
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