ストックフォトの利用拡大で、日本のコンテンツ作りはどう変わるのか --ゲッティ島本氏に聞く - (page 2)

拡大するストックフォトのビジネス規模、利用シーンはまだ増える

 商用利用が可能なイメージ写真であるストックフォトは、近年ウェブサイトやポスター、広告のデザイン、コンテンツ制作などに活用されることが多くなってきているが、その市場拡大をけん引しているゲッティイメージズは、現状をどのように捉え、今後をどのように見据えているのか。ゲッティイメージズ ジャパンの代表取締役社長である島本久美子氏に、ワークショップが開催された百萬遍知恩寺にて話を伺った。


ゲッティイメージズ ジャパン代表取締役社長の島本久美子氏

--日本国内におけるゲッティのストックフォトビジネスの現状について教えてください。

 売上については、近年10%以上の成長を続けています。2016年については、リオデジャネイロオリンピックの開催や、2020年の東京オリンピックに向けた動き、国内のインバウンドビジネスの拡大などを背景に、さらに成長するものと思われます。2016年前半だけで20%近くビジネス規模は成長しています。

--ウェブサイトをはじめ、ストックフォトを活用していると思われるコンテンツは増加していますね。

 現在はAPIを使ってコンテンツを提供できる環境が整っているため、以前と比べて利用されるストックフォトの量や利用シーンは大きく増加しています。ただ、この利用シーンはまだまだこれから拡大しなければならないと感じています。

 例えば海外では、地域のイベント開催を呼びかけるポスターや個人商店のチラシでも素人が撮った写真を使うのではなく、ストックフォトで素晴らしい写真を数百円で購入して活用しています。そうした、日常のさまざまなシーンで当たり前のようにストックフォトを活用するレベルにまでは、日本は到達していないのが現状です。まだ日本市場には伸びしろがあり、ストックフォトの利用シーンがさらに拡大すれば、市場規模は今の5倍程度にまで成長するのではないでしょうか。

 また、電車に乗ると車内広告が掲載されていますが、大手企業が大規模な予算を掛けて作った広告と、それ以外のローカル企業の広告ではクリエイティブに差がありすぎるのではないかと感じています。

 ローカル企業の広告はどうしてもテキストが中心になってしまい、イラストや写真を使っていても、なかなか目を引くことができないものが多い。こうした部分にインパクトのあるストックフォトが活用されれば、本当に日本市場にストックフォトが浸透したと言えるのではないでしょうか。

 これを日本市場の目標だと考えると、現状はまだまだ“成長過程”だと言えるのです。

写真が持つパワーをマーケティングにどう生かしていくか


ワークショップで参加者が撮影した写真(Azmanjaka / iStock by Getty Images)

--ストックフォトの拡大でウェブサイトや広告のコンテンツ作りはどう変わっていくのでしょうか。コンテンツ作りやマーケティング活動でビジュアルを活用することの意義を教えて下さい。

 世の中がどんどんグローバル化される中で、テキストでの表現は言語の壁に直面してしまう。一方でビジュアルはこの言語の壁を超えられるので、グローバルにメッセージを伝えるためにストックフォトをはじめとするビジュアルを多用していくことは非常に効果的だと考えています。言葉がわからない人々にも、ものごとを伝えられます。

 私はかつて報道写真を中心に活動していましたが、テキストはまた聞きでも文章を作ることができ、1次情報でなくても情報が作成できますが、写真はその現場にいなければ撮ることができません。その場で実際に起きたことや写真家が感じたことを1枚の写真に収めます。

 その結果、言葉でいくら説明しても伝わらないことでも、1枚の写真がすべてを物語ってくれることがあります。例えば、シリアの難民問題。命がけで国境の川を渡ってきた人々の写真、溺れてしまった子どもの写真、これらの写真1枚で世界の人々の意識を大きく変えることができる。言葉で説明してピンとこなくても、1枚の写真でこの課題を身近なものに感じてくれるのです。こうした感情に訴えるインパクトが、写真にはあると思います。

--これをマーケティングのシーンに置き換えると、写真は人の態度変容を促す直感的なメッセージングを実現し、写真を通じてものごとを伝えることで人の心を動かして“自分事化”してもらうことが期待できるということですね。

 実際、広告コンテンツにはよりパワフルなビジュアルが求められるようになり、ウェブサイトでも写真が人の関心(コンテンツへの接触)を促すアイコンとして活用されてきています。写真は直感的に判断ができるので、読者が取捨選択が素早くできます。

 コンテンツの消費スピードが増している中で、そのスピードに応えるコンテンツを提供し、その中で読者の注目をどう集めるか、読者の素早いチェックの動きをどうやって止めるかを考える必要があるのではないかと思います。

 加えて、人々のビジュアルに対する目は肥えてきています。最新のトレンドを理解し、それに合わせた写真を使うことが重要ではないでしょうか。例えば、旅行会社がビーチリゾートの広告を作る時、普通なら青い空と美しいビーチをビジュアルに使いそうですが、最近ではそこに自分自身が実際に居て楽しんでいるようなイメージを想起させるようなビジュアル、例えば、今まさに海に飛び込もうとしている手だけが写っているようなものが好まれる傾向があります。ゲッティでも、どのような写真に人気が集まっているかを分析し、アニュアルレポートなどを通じてフィードバックしています。

--最後に、今後考えられるストックフォトの新たな可能性についてお聞かせください。

 前述の通り、企業の規模に関係なくストックフォトを使って誰もが豊かなクリエイティブを実現できるという目標は1つありますが、これはあくまで商業的なもの。今後は(商用利用だけでなく)一般の人も日常の中でストックフォトを活用できるよう、ソーシャルメディアや個人ブログ向けにコンテンツの開放を進めています。

 ゲッティイメージズの一部コンテンツはシェアボタンや埋め込み機能が使えるようになっています。人々の情報発信において当たり前のようにゲッティイメージズのストックフォトを活用する。そういう世界を私たちは目指したいと考えています。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]