CNET Japan Live 2016

クラウドソーシングから生まれた「CGS」で変貌するビジネス-- うるるが実践

別井貴志 (編集部)2016年05月20日 13時49分
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  • CGSの概要

 「ワークスタイル変革」が叫ばれてから久しいが、近年では不特定多数の人に業務を委託し、受注者は場所や時間にとらわれない新しい働き方ができる「クラウドソーシング」も普及してきた。こうした中、「CGS」という言葉をご存じだろうか。うるるの取締役である小林伸輔氏は、「CGSとは、Croud Generated Serviceの略で、つまりクラウドが生成するサービスのことです。CGSではサービスの裏側にクラウドソーシングに登録している“在宅ワーカー”、われわれは“クラウドワーカー”と呼んでいますが。クラウドワーカーたちがわれわれと一緒に作りあげて、大きなサービスとなるビジネスモデルです」と説明した。

 これは、2月に開催されたイベント「CNET Japan Live 2016 Target 2020~テクノロジーがもたらすパラダイムシフト」の中で、うるるが「クラウドソーシングから生まれた『CGS』で変貌するビジネス流儀」と題して講演した時の発言だ。講演を振り返りつつ、新しいワークスタイルを浸透させる可能性を持つビジネスモデルであるCGSを考察する。講演は2部に分かれ、1部では先の小林氏がうるるの事業やCGSの特徴を説明し、2部では対談がされた。

うるる 取締役 小林伸輔氏 「CGS」を説明したうるるの取締役である小林伸輔氏

 まず、うるるについて、社名はユニークだが、オーストラリアのエアーズロックを現地語で「うるる」と呼ぶところから由来している。代表取締役社長の星知也氏がオーストラリアに昔訪れた際に、エアーズロックに感銘を受けて決まったそうだ。事業は主にクラウドソーシングを活用した事業を展開しており、中核に位置するのがクラウドワーカーとクライアントの仕事をマッチングさせるクラウドソーシングプラットフォーム「シュフティ」だ。加えて、シュフティを活用したCGS事業やビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)事業の3つが柱だ。小林氏は「うるるの会社としてのビジョンは“人のチカラで世界を便利に”です。そして、われわれのミッションはCGSを通じてクラウドワークという働き方を世の中の標準にすることです」と述べた。

 シュフティのサービスは、その名の通り、女性や主婦がメインのクラウドソーシングサービス。2007年から開始したが、当時は日本にクラウドソーシングという言葉はなく、うるるでは「在宅ワークマッチングサービス」と呼んでいた。クラウドソーシングは2013年ぐらいから台頭し、いまや100以上のサービスがあるようだ。その中で、ランサーズやクラウドワークスとの比較を聞かれたときには、「いわゆるシステムエンジニアリングやデザインではなくて、比較的誰でも簡単にできるオフィスワーク、データの入力やライティング、ウェブからの情報収集などの業務をメインで展開しているクラウドソーシングサービス」(小林氏)と説明しているという。そして、小林氏は「ただし、シュフティはわれわれのCGSのサービスを作るために持っているのではなく、われわれもそうだが、もっともっとたくさんの企業がクラウドワーカーを活用した事業を作り上げてほしいと考えており、すべての企業が活用できるプラットフォームという想いを込めて運営している」という。

 そして、CGSのより詳細な説明を進める前に小林氏は1つの疑問を投げかけた。「“将来的に人間の仕事の多くはロボットやAIに奪われる”と言われおり、僕もぞっとしてます。これは、2014年1月に英エコノミストでオックスフォード大学が研究結果を発表したことに始まっています。20年以内に、現在人間が行っている仕事の47%がロボットやAIに奪われると。Googleのラリー・ペイジや、Microsoftのビル・ゲイツも同じような主旨のことを言ってます。でも、この話は本当に絶望するようなことなんでしょうか?」。

 これについて小林氏は「この言葉を悲観的にとらえるか、肯定的にとらえるか。たとえば、“奪われる”という言葉に着眼すると、悲観的でしょう。たしかにこれから先、仕事はどんどん奪われるかもしれませんが、それに伴って人ができる、人でしかできない仕事もどんどん増えていくと解釈すれば、かならずしも悲観的にならないと思います」と語った。

 過去を振り返ると、PCも電卓もない時代は複雑な計算はおそらく一部の優秀な人にしかできなかった。しかし、いまはExcelを使えば複雑な計算もできるようになり、つまり計算するという仕事はPCに奪われたわけだが、ここで算出された膨大なデータを"分析する"という仕事が新たに人に生まれた。今後は、“分析する”という仕事がAIやロボットに置き換わるかもしれないが、ロボットが分析したデータを用いて、何かを発明したり、その発明したものを販売したり、そういった仕事は人がやることになるというわけだ。

 小林氏は「こう話すと、やっぱり人間の仕事はどんどん高度になっていくんじゃないかと感じる方がいるかもしれないが、そうではありません。後ほどCGSの具体例を話しますが、われわれは国や自治体が提供している入札情報を、全国のクラウドワーカーに集めてもらって、それをクライアントに提供するサービスをしています。このサービスはウェブサービスなので、ウェブの進化、ITの進化によってサービスができました。ただ、このITの進化によって、逆に入札情報を集めるという仕事がクラウドワーカーにたくさん生まれています。一昔前には、入札情報を集める仕事はありませんでしたが、われわれはITの力を使っていままでになかった仕事をクラウドワーカーのために生み出せたのです」と、テクノロジと人の両方の力が必要であることを強調した。

 こうした“情報を収集する”点でいえば、ウェブサイトに整理整頓され、統一されたフォーマットでウェブサイトなどに情報が掲載されていれば、たしかにクロールして収集はできる。しかし、少しでも非定型な情報であればテクノロジシステムでは検知できない、もしくはかならず収集に漏れがでる。ほかにも手書き文字をOCRで読んでもかならず正確に読み取れるとは言い切れない。画像の読み取りも同様だ。つまり、うるるはテクノロジを活用しつつ、人でなければできない、人だからこそ正確にできるという面に着眼してCGS事業を横展開しており、これを可能にするためにクラウドソーシング事業=シュフティを展開しているのだ。

  • 人の仕事はロボットやAIに取られる?

  • 人でなければできない仕事

  • ロボット、AIにできない仕事

  • プラットフォーム事業とCGS事業

 そして、シュフティで活動するクラウドワーカーを活用したCGSの具体例を挙げた。最初は、世の中の入札情報を一括検索できる「入札情報速報サービス」で、頭文字をとって「NJSS」(エヌジェス)と呼ばれている。これは、国や地方自治体、外郭団体から民間企業に提供されている入札情報をシステムによるクローリングではなく、すべてクラウドワーカーが直接情報をチェックしてデータベースを構築しているサービスだ。

 年間20兆円もの仕事が国や地方自治体から民間企業に提供されているので、民間企業はこぞって入札情報を探すわけだが、世の中に約6000の官公庁、地方自治体、外郭団体のサイトがあり、それぞれの案件ごとにそれぞれのサイトに情報が掲載されているという大きな問題がある。しかも、情報の掲載フォーマットは統一されてなく、PDFや画像によって公示されている入札情報だとクローリングで情報を収集しようとしても認識できない、読み取れない場合も多い。そこで、うるるではクラウドワーカーたちが1つ1つの情報を人力で目視して判断しているので、「理論上は100%の情報を認識して集められます。この点が評価されて、現在数千社に利用されているのです。人が情報を入力することで、人でしかできない付加価値を提供しています」と小林氏は特徴を挙げた。入札案件名称だけでなく、入札案件に参加するための資格情報や落札情報なども目視してデータベースに入力するため、システムと人の価値を組み合わせているというわけだ。

 2つめのCGSは、「KAMIMAGE(カミメージ)」で、紙とイメージを合わせた造語だ。従来、アンケートをするには紙にペンで記入してもらって集計する方法だったが、KAMIMAGEはタブレットにタッチペンで記入してもらい、それを画像としてシュフティのクラウドワーカーの元に配信され、ワーカーが画像の内容を見てデータベースへ入力する。そして、1人が入力するだけでは誤字などがでてくるので、1つの画像に対して最大4人のワーカーが入力することによって、誤字脱字を防ぎ入力精度99.98%にしているという。

 3つのめのCGSは、「空き家活用ポータル」だ。少子高齢化とともにさまざまな事情で空き家が増えて、固定資産税を払い続けたり、犯罪に使われたりといった社会課題となりつつある。こうした状況に対して不動産会社は、足で空き家を探して所有者と接触し、その空き家を有効活用しないかと提案している。こうした空き家情報収集には大変な労力がかかるため、うるるでは全国27万人(2016年2月現在)のクラウドワーカーに実際に外にでて、空き家があったらスマートフォンで写真を撮って登録してもらうという。そして写真だけでなく、敷地面積や築年数、分譲か戸建てかなどの情報も登録してもらってデータベース化し、不動産会社などに提供しているサービスだ。

 以上は、うるる自らが手がけているCGSだが、他社でもCGSに取り組んでいる企業がある。BearTail(ベアテイル)が運営している家計簿アプリ「Dr.Wallet」では、買い物をした際のレシートをスマートフォンで撮影して送信すると、クラウドワーカーたちが目視でデータ化するサービスだ。

 このようにCGSは広がりつつあるが、クラウドワーカーを活用するメリットは何か。小林氏は「たとえば先ほどの“入札情報を収集する”という場合、アルバイトや派遣社員を数百名雇用したらどうなるでしょう。その方たちを教育して、人件費も固定でかかり、PCなども必要になります。オフィスも借りなければなりません。結局はものすごくお金がかかるのです。そこをクラウドワーカーに置き換えると、まず人件費は固定ではなく仕事が発生したときにだけかかるので、売上とともに費用がかけられます。もちろん品質を管理する人は別途必要なので、その分の費用はかかりますが、われわれ自社の比較ではおよそ64%コストカットできています」と費用対効果の向上を指摘した。

 では、受注した業務の品質をどのように管理しているのだろう。この点について小林氏は「NJSSでは6000の機関を数百名のクラウドワーカーで収集していますが、適当に集めているわけではなく、うるるの社内で品質を管理している部隊がいて、ワーカーのアサインから教育、品質チェックまでをしています。また、KAMIMAGEでは品質管理の部隊を作るというよりは、システムを駆使して精度を担保してます。たとえば、手書き文字(画像)が即座にシュフティに送信される仕組みや、シュフティのワーカーが1名ではなく、4名で入力して精度を高める仕組みをうまく使って価値を高めているのです。こうした品質管理のノウハウを培ってきたので、CGSを自分たちでも事業化したいという場合はぜひ相談してほしいです」と語った。

  • クラウドワーカー活用のメリット

  • CGS成功の秘訣

  • CGSがうまくいく具体例

 この最後の発言はCGSの価値を広く理解してもらい、もっともっと広げていきたいとの想いからだ。「われわれはCGS事業の新規アイデアを出すブレストをよくやっています。いくつか紹介しますのでお持ち帰りになって、ぜひ事業化してください。そして、CGS協会も作りました。CGSに興味のある方、やってみたい方、チャレンジしたい方はぜひわれわれと一緒に広めていきましょう。ちなみに年会費、入会金は無料です(笑)」と会場に訴えた。

 語られたアイデアの1つは、国や自治体などの“助成金や補助金の情報提供サービス”だ。しかし、この情報は入札情報よりもフォーマットがまちまちで非常に収集が難しく、「情報を見極められる見識のあるクラウドワーカーたちが集めて、整理できればとてつもないサービスができるのではないでしょうか。われわれは、まだそこまでやる自信がないのでやれてませんが(笑)」(小林氏)という。もう1つ挙げられたのが、“会議などの議事録の書き起こしサービス”だ。会議の後に議事録をまとめるのは大変な作業で、後回しになることも多いと思われるので需要は高そうだ。たとえば、会議の音声をオンタイムでクラウドワーカーが聞き、そのまま自宅でタイピングし、会議が終わって席に戻る頃にはメールで議事録が送られているといった具合が考えられそうだ。

 最後に小林氏は、「クラウドソーシング、CGSがビジネスを自由にします。今後は“ITだけでは完璧にできない。でもクラウドワーカーを活用すればできるかも”といったパラダイムになっていくのではないでしょうか。想像してください。たとえば、奥さんが育休で外にでられない、仕事ができない。でも、その世界にCGSが溢れていて、在宅でもたくさん仕事ができる。そして奥さんのその仕事が世の中の価値になる……。これはすばらしくないですか。もう1つ想像してください。みなさんは、これから新規事業を興したり、起業したりします。でも、資金がない。サービスを構築できない。でも、安心してください。インターネットの世界に入れば、何十万人、何百万人ものクラウドワーカーがみなさんの味方としています。こうした方がたを活用して、新しい事業を作り上げていきましょう」とまとめた。

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