もちろん走り切ってしまって規模の経済などを築いてしまえばマーケットリーダーになることができます。しかし、いずれ周囲のプレーヤーも法改正後の環境の中では何が求められているのかに気付くことになります。競合との競争が始まります。その際にレッドオーシャンを避けるための武器の1つが特許出願です。
特許出願の対象は「発明」で、「発明」とは「テクノロジを用いた顧客の課題を解決するための新しい視点」(第2回)です。法改正後の条件下で顧客の課題を解決するための最適なプロダクトは、そこにテクノロジが活用されているかぎり「発明」に該当します。
その発明について特許を受けられるか否かは、特許出願の日を基準として、同業者であればどのように考えたかという点が考慮されます。法改正前の常識に周囲が縛られている段階であれば、同業者は発明者のようには考えることが困難であったと判断される可能性が十分にあります。そして、このような発明を権利化することができれば、改正後に競合が現れても競争を抑制することができます。
こうした、法改正と絡めた特許戦略の際立った事例が「Uber」です。これまで数件の特許権が成立した一方で、10件以上の特許出願が米国特許庁で拒絶されて特許不可と判断されていますが、Uberは、それらの判断を受け入れることなく争う姿勢を示しています。なぜ労力と費用をかけて特許権の取得にこだわるのでしょうか。
Uberは世界各地で既存のタクシー業者との間でトラブルを引き起こしてきましたが、それは法改正がまだ議論もされていない中で規制緩和後の世界観でプロダクトを提供し始めたためです。法改正を待つのではなく、ビジネスの拡大と並行して規制当局に働きかけていくことで規制緩和を促しています。
しかし、規制緩和は自社ビジネスの拡大を助けると同時に他社の参入を容易にしてしまいます。Uberにとって特許出願は、自社に対する規制を取り除きつつ他社の参入を阻止するための重要な打ち手として位置付けられているとみれば、安易に断念せずに権利化に執着していることも理解できそうです。
Uberのように、規制当局へ働きかけるのはスケールの大きな話ですが、せっかく切り開いた市場をレッドオーシャンとしないために、打ち手の1つとして特許出願も是非検討してみてください。
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大谷 寛(おおたに かん)
弁理士
2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2014年 2015年 主要業界誌二誌 Managing IP 及び Intellectual Asset Management により、特許分野で各国を代表する専門家の一人に選ばれる。
専門は、電子デバイス・通信・ソフトウェア分野を中心とした特許紛争・国内外特許出願と、スタートアップ・ベンチャー企業のIP戦略実行支援。
Twitter @kan_otani
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