新プロダクトのローンチにあわせて出されるプレスリリース。多くの場合、そのプロダクトが生まれた背景、解決する課題、主な機能、費用、そして今後の展望などがまとめられています。
もちろん、プレスリリースの目的は、各種メディアに発信して記事・番組などで取り上げてもらうことになりますので、その観点で内容とタイミングが決まってきますが、知財に少し注意を向けることで、その価値を大きく高めることができます。
一例として、マネーフォワードが提供する中小企業・個人事業主向けクラウド型会計ソフト「MFクラウド会計・確定申告」の新機能のプレスリリース(PDF)では、特許出願中であることに言及して、技術の独自性を印象づけています。
プロダクトが独自技術に支えられているということは、ユーザーに対しては、他社のプロダクトでは得られない利便性があるということになりますし、投資家に対しては、他社が代替技術を見出すまでは競合に対する優位性が維持可能であり将来の成長が期待できるということになります。
技術の詳細を伝えることは難しいので、こうした「私たちはテックカンパニー」というテクノロジ・ブランディングは実際にハイテクかどうかとは別に大手が積極的に利用していますし、スタートアップでも有効です。
ブランディングの観点とは別に大切なのは、プレスリリースを出すことで、他社による特許権取得のハードルを上げることができるという点です。
プレスリリースには冒頭で述べたように、解決すべき課題、そのための新機能などが多くの場合書かれることになります。マネーフォワードの例では、銀行口座から自動的に取引明細を取得することでユーザーの手間を省きたいものの、電子証明書を用いてセキュリティを強化したログイン方式を採用するインターネットバンキングの銀行口座からの自動取得には対応できていませんでした。
この課題に対して、マネーフォワードは新たなアプリケーションを独自開発。これを各ユーザーの端末にインストールしてもらうことで、電子証明書を必要とする口座への自動ログインを可能としたことがプレスリリースには書かれています。
ここで、スタートアップのみなさんにぜひ知っておいていただきたいのですが、特許出願は、申請の完了日から1年半後に公開される制度になっています。そして、特許出願した発明が審査を通過して特許権の付与を受けることができるか否かは、申請の完了日における新しさにより判断されます(第2回)。したがって、自社の特許出願が公開される前に他社が特許出願をすると、その他社の特許出願の審査においては、基本的には、自社の特許出願の存在が考慮されないことになります。
そこで、プレスリリースは、1年半が経過して特許庁により公開される前に、自社の特許出願の一部を前もって公開しておく機会として使うことができるのです。新プロダクトが解決する課題、そのための新機能などについて、どこまで詳しく説明するかはすべてスタートアップが自由に決めることのできる内容です。
特許出願に記載した内容のうち、たとえば他社も近いうちに開発し、特許出願をしてくる恐れが高い部分については、積極的に公開してしまい、他社が特許権を取得するためのハードルを上げることができます。
マネーフォワードの特許出願(特願2015-026999)は、2015年に入っておそらくこのプレスリリースの直前に申請されていますので、2015年2月17日のプレスリリース時点ではまだ公開されていません。特許出願にどこまで詳細が記載されているかはまだ分からないのですが、少なくとも電子証明書を用いたログインを、マネーフォワードのサーバではなくユーザー端末において行い、さらに金融機関の口座から自動取得した取引明細をユーザー端末からサーバに転送することがプレスリリースでは開示されています。
ですので、特許出願自体はまだ未公開の段階ですが、このような技術と近い技術について特許権を取得することがすでに困難になっています。
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