Microsoftが米国時間3月30日の「Build」カンファレンスで行ったあることに、筆者は驚いた。
それは拡張現実ヘッドセット「HoloLens」のデモでもなければ、「Cortana」デジタルアシスタントでもない。ほかのボットを開発する取り組みでもない。筆者を驚かせたのは、Microsoftが2つのライバルOS(LinuxとAppleの「OS X」)にとって重要な開発者向けツールを「Windows」に移植すると発表したことだ。
「Bourne Again Shell」(「Bash」)と呼ばれるそのツール自体は、それほど重要ではない。しかし、MicrosoftがBashをWindowsに移植するのは重大なことである。なぜなら、それは、Microsoftが(いい意味で)大きく変わったことを証明しているからだ。簡潔に言うと、Microsoftは、支配力が再び弱まってしまった今、昔のような積極性を発揮するようになったということだ。そしてこのことが、誰もが恩恵を得られるような技術革新につながる可能性もある。
1990年代のMicrosoftは「Windows」(今でも大半のPCに搭載されている)、生産性アプリケーション群で構成される「Office」スイートの販売を通して、強大な事業を構築した。その後、インターネットアクセスとスマートフォンの時代が到来し、GoogleとAppleは、Microsoftがいかに独善的になってしまったのかを証明する機会を得た。
この10年間、緩慢なMicrosoftはライバルのLinuxからの挑戦に対して、技術革新ではなく、レトリックと法的攻撃で応じてきた。Linuxはオープンソースソフトウェアであるため、誰でもその基礎をなすコードを閲覧して、修正を加え、無料で自分の製品で使用することができる。Linuxはプログラマーの間で熱烈に支持された。LinuxがFacebookのデータセンターからGoogleの「Android」スマートフォンまで、あらゆるものを動かすようになったのも不思議ではない。
2001年、当時の最高経営責任者(CEO)だったSteve Ballmer氏はLinuxを「癌」と評し、その時代にWindows担当チーフを務めていたJim Allchin氏は、Linuxを「知的財産の破壊者」と呼んだ。Microsoftは法的攻撃を仕掛けて、Androidスマートフォンベンダーとの特許ライセンス契約を勝ち取った。これにより、同社はおそらく何十億ドルもの収益を上げたはずだ。
ここまで読めば、2016年3月30日、「Windows 10」でオープンソースのBashを実行できるようになると聞いたときの筆者の驚きを想像してもらえるはずだ。それも、Microsoftのライバルで、今や「素晴らしいパートナー」となったCanonicalと開発したLinuxの翻訳技術を使ってのことである。MicrosoftのCEOを務めるSatya Nadella氏の下で進められている変化は、それほど劇的ということだ。
Bashを使えば、マウスやメニュー、ウィンドウが存在しなかった頃のように、UNIXスタイルのテキストコマンドを入力してコンピュータを操作することができる。実際に、最初のBashリリースは1989年に公開された。Microsoftが初めて商業的成功を収めたWindowsをリリースする1年前のことである。
Bashは基本的な機能だけを備えたツールだが、プログラマーは今でもそうしたコマンドラインインターフェースを使っている。黒い背景に緑色のテキストが表示される画面は、映画に登場するハッカーのためだけのものではなく、Bashは強力で人気の高い選択肢となっている。Microsoftがそれを受け入れたということは、同社がライバルの脅威を恐れていないこと、そして、自社のソフトウェアを他者が提供する最高のソフトウェアと連携させるのに前向きであることを示している。Microsoftのプログラマーたちは、Windowsが支配的な地位を失った世界で、自らの価値を証明しなければならなくなるだろう。
Microsoftが「Office」ソフトウェアをAppleの「iPhone」と「iPad」、Androidを搭載するスマートフォンとタブレットでも利用できるようにしたのは、そのためだ。昔ならWindows向けに記述されていたようなアプリでも実行できるように、ブラウザの性能を高めるウェブテクノロジを同社が受け入れているのもそのためだ。開発者の支持を得ようとする別の試みとして、Microsoftが定評のある「Visual C++」プログラミングツールに、Linuxで動作するプログラムの開発機能を追加したと発表したのもそのためである。
Microsoftのカンファレンスの後、CCS InsightのアナリストであるGeoff Blaber氏は、「開発者はあらゆるプラットフォームの活力源であり、Microsoftの未来にとって欠かせない存在だ。Build 2016は、消費者の関心を集めることはないかもしれないが、今後のより大きな技術革新の基礎を築く役割を果たしている」と語っている。
だから、喜ぼうではないか。「Windows Phone」は現時点では上手くいってないかもしれないが、この新たな方針は、Microsoftが近い将来、ユーザーが欲しくなるようなものを作ってくれる可能性が高いということを意味するのだから。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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