2月18日に開催したイベント「CNET Japan Live 2016 Target 2020」では、テクノロジによってもたらされるパラダイムシフトをテーマに、各業界のキーパーソンによる講演やパネルディスカッションなどを実施した。
展示会場で行われたミニセッションでは、クラウド名刺管理サービス「Sansan」を提供するSansanでエヴァンジェリストを務める松尾佳亮氏が、同社がこれまで社内で実施してきたワークスタイルの改革について紹介する「ちょっと未来の働き方 – 2020年のワークスタイル」と題しプレゼンテーションをした。
まず松尾氏が紹介したのは、2011年にSansanが徳島県神山町に設立したサテライトオフィス「Sansan神山ラボ」で生まれたワークスタイルの革新だ。
神山町は65歳以上の人口が半数以上を占める、いわゆる“限界集落”と言われる場所。設立のきっかけとなったのは、同社代表取締役の寺田氏が、神山町に本拠を置き“田舎をステキに変える”という活動をしているNPO法人「グリーンバレー」の理事長である大南氏と出会ったことがきっかけだったという。
「寺田が大南氏から『御社の本業が、東京と変わらず神山でも成立することを、ぜひ示してください』という言葉をもらい、その言葉に寺田が応える形でサテライトオフィスの設立が決まった」(松尾氏)。
松尾氏によると、当初この神山ラボは、職住接近による働きやすさと日常生活から離れることで得られる「転地効果」、田舎が持つ解放感や癒しによって、より集中できる環境を提供し、エンジニアの創造性、集中力、生産性を高めることを目的に設立した。しかし、実際に運用を開始すると思わぬ副産物が生み出されたのだという。
この点について、松尾氏は「合宿などで神山ラボにいくと、社員はみんな元気になって帰ってきた。普段とは違う環境で仕事をすることで、エンジニアに限らず多くの社員が新しい発想を生み出したり生産性を高めたりできた」と説明した。
以来、この神山ラボは常駐勤務、長期滞在、部署やプロジェクトの合宿、新入社員研修などで活用されている。実際にこの神山ラボに行った社員は、エンジニアだけでなく営業、マーケティング、広報、人事など多岐に渡る。過去には、社員が家族全員で神山ラボに長期滞在して、子どもたちをラボの庭などで遊ばせながら仕事を行ったこともあるのだそうだ。
松尾氏は、この神山ラボから生まれた効果について、「仕事の生産性が向上しただけでなく、リモートワークのリテラシーが向上し、新しい働き方を創造するようになった」と説明。東京のオフィスと常時ウェブ会議などを通じて仕事のやりとりをすることによって社員の中にリテラシーの向上が生まれ、また遠隔地の顧客に対してもウェブ会議を通じてオンラインでいつでも商談することができるように専用ブースを設置するなど、新しいワークスタイルを創造した。
「人材採用や既存社員のリテンションにも効果があり、また革新的な企業文化を醸成することにもつながった。当初は、徳島の神山にオフィスを出すということに疑問を持つ社員が多かったが、今では神山ラボのスタイルが社員にとって当たり前になっている」(松尾氏)。
そのほか、松尾氏は神山ラボでも実践しているオンライン営業について紹介した。Sansanでは、インバウンドに対する対応から商談、受注に至るまでの全ての営業プロセスを非対面で行うオンライン営業を行っており、さまざまな効果を生み出しているという。
「営業交通費が大幅に減っただけでなく、移動にあてる時間も商談ができるため、商談機会が2倍になり、また地方からの見込み顧客にも対応できることで商圏が大きく広がった。さらには営業担当者の育成も一気に進んだ」(松尾氏)。
また、神山ラボからインスピレーションを受けて、東京・表参道にある本社オフィスに多目的スペース「Garden」を設立。「社員の個性を伸ばす」という方針を表現するため、世界中のさまざまな特徴を持った希少な植物を集めた。現在では、社員が気軽に集まって新しいアイデアを生み出せる“知識創造空間”として機能しているという。
加えて、松尾氏は週に1度在宅勤務ができる「イエーイ」や土日に出勤して平日に休める「どにーちょ」といった働き方に関する社内制度、オフィスで是認参加のもと行われる健康セミナーなどを紹介した。
最後に松尾氏は、こうした社内のワークスタイルの革新について、「これはSansanのミッション達成のために必要な手段であり、経営レベルでコミットするべきテーマ。また、サテライトオフィスは生産性の向上を目的に始まったが、現在ではSansanのミッションを体現する場へと昇華している」と説明。
ワークスタイルの変革はそれ自体が目的ではなく、企業ミッションを達成するための手段として必要に応じて段階的に変化してきたのだという。それを踏まえて松尾氏は、ワークスタイルを革新するために重要なこととして、生産性の向上や企業文化の醸成などといった「目的」を明確化すること、他社の真似を考えるのではなく自社のミッション、文化、戦略などから適切なワークスタイルを考えること、すぐに理想形を求めるのではなく、段階的に新たなワークスタイルを導入して、改善しながら社内に浸透させていくことなどを挙げた。
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