「職『場』にとらわれない新たなワークスタイル最適化」をテーマに9月に開催された「CNET Japan Conference 2015」。多くの企業が働き方を見直し、生産性の向上やワークライフバランスの最適化を目指すようになっている。
基調講演に登壇したのは、Sansan 取締役CWOの角川素久氏だ。角川氏の肩書きになっているCWOは「チーフ・ワークスタイル・オフィサー」の略。この肩書きを持っているのは世界に角川氏1人、なのだという。
Sansanは名刺管理ソリューションを提供する企業だ。法人向け、個人向けに、カメラやスキャナーで取り込んだ名刺画像を読み取ってデータ化するサービスを提供。OCRだけに頼らず実際に人がデータ化するため、正確さや早さが評価されている。また法人導入した場合、社内の人脈が一元化され、営業活動の効率化につながると注目されているサービスだ。しかし、そのサービス内容以上に注目されているのが「Sansan神山ラボ」の存在だろう。
Sansanは東京に本社を構えているのみで、支社をもたない。そのSansanのサテライトオフィスが、徳島県神山町にある「Sansan神山ラボ」だ。人口6000人程度のうち65歳以上が半数を占める「限界集落」でもある。この町を活性化させる事業に乗った形で、このサテライトオフィスは開設されたという。
「地域活性化に取り組むNPOグリーンバレーでは、仕事を持って現役世代に移住してきてもらうことを目的としている。退職後にのんびりとということではなく、パン屋さんが欲しいからパン屋さん募集、という具合。IT企業が募集された時、1号として参加した」と角川氏は経緯を語る。元々Sansanの代表取締役である寺田氏が、シリコンバレーのように都会ではない地域でのびのびと開発するという働き方を日本でもできないかと考えていたところによい出会いがあった。
大きな農家から古民家を借り受けて、徐々に改装しながら使っているという「神山ラボ」の目的は、生産性向上だ。「社内の3分の1がエンジニアだが、1フロアに営業も一緒にいて電話対応などをしているため集中できる環境ではない。うるさくてイヤフォンをしてしまっている。そんなエンジニアの創造性・生産性を高めることが当初の狙いだった」と角川氏は語った。
講演の中では実際の「神山ラボ」を写真を使って紹介。納屋や牛小屋を転用したオフィスや、庭にハンモックをかけての作業風景など、のんびりとした雰囲気が感じられる光景が並べられた。また使い方として部署やプロジェクトが丸ごと数日単位で滞在する「合宿」形式のほか、希望者が上長の許可を得て2週間から1カ月程度滞在する長期滞在型の利用があることを紹介。新入社員研修や営業合宿でも利用するなど、全社員にとって親しみのある場であることも解説された。
「当初は合宿的な使い方を想定していたが、今では常駐勤務者も2人いる。家族で滞在した例もある。福利厚生が充実していると誤解されることもあるが、これは働く場所。東京よりハードに働いている部分もあるが、思わぬ副産物として社員が元気になって帰ってくる」
常駐勤務者は東京からの希望転勤が1人、現地採用が1人で近距離通勤を行なっているようだが、期間限定で滞在する他の社員はラボで寝泊まりすることになる。深夜まで働いても朝9時の「朝会」に間に合えばよいだけなので睡眠時間がしっかりととれること、通勤で余計なエネルギーを消費しないことが大きな理由だろうと語った角川氏は「エンジニアはどうしても遅くまで働きがちで、遅くに帰宅して深夜に食事を取るような人が多い。しかし神山ラボの近所によい温泉があり、そこが8時で閉まってしまうために7時くらいに仕事を一旦切り上げる。温泉に入ればお腹も空くから食事をする。その後で深夜まで仕事をしても、早い時間に食事や風呂を住ませて規則正しい生活になっているのがよい」とも語った。
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