無料でスペースを利用できることから、利用者の数は年々増加しているようだが、その背景には何があるのだろうか。
オランダでは、1980年代以降の政策によりワークシェアリングが普及しており、パートタイム労働者が多く、1人当たりの労働時間が短い。パートタイム労働といっても、1996年にフルタイムとパートタイムの待遇の差別が解消され、フルタイム賃金に対するパートタイム賃金の比率は92%とほぼ差がない(日本では48%と格差が見られる)上に、有給休暇や社会保障などの待遇もフルタイムと同じ。
こういった背景からパートタイムで働くデメリットがなく、日本と比べると時間に余裕のある人が多いことがわかる。さらに、副業を禁止するルールがなく、2002年以降に2つ以上の仕事をしている人の数は増えているという。その多くは、フルタイムまたはパートタイムの仕事をしながら、余った時間で起業をしている人だ。
また、オランダ人の国民性も、このサービスが受け入れられるのを後押ししている。オランダ人は好奇心旺盛である。他言語を駆使し、差別をしないコスモポリタン的姿勢から、新しく出会った人と積極的に会話することに萎縮せず、むしろ楽しむ。
実際に、新しくマンションに引っ越してきた住民には必ず挨拶をし、積極的に会話をするオランダ人をよく見かける。レストランで隣同士になった客とあたかも友人かのように接している場面もよく目にする。このことからも、Seats2meetの「新しい出会いからイノベーション、コラボレーションを生み出す」というコンセプトが、この国にマッチしていることがうなづける。
Seats2meetを運営するCEDF Holding BVを共同創業したのは、Ronald van den Hoff氏とMarielle Sijgers氏。CDEF Holding BVは現在、Seats2meet以外にも、社会の変化に関する情報を発信するオンラインメディア「Society 3.0」や、Seats2meetのシステム構築を担当する「Cyberdigma」を運営している。
Ronald van den Hoff氏は、欧州でも有名なアントレプレナーでありトレンドウォッチャー。CEDF Holding BV以外にも、EコマースやEラーニングなどの分野で他の企業のイノベーションに関わっている。Marielle Sijgers氏は、アパレルショップを経営する両親の元で育ち、気がつくと経営に興味を持っていたという。
2人は、「アントレプレナーやスキルを持ったフリーランスは、未来や社会のサスティナビリティを創っていく人たち。そして彼らの知識、経験はお金に変えられるものではない」と考え、2006年にSocial Capitalがお金代わりになるというアイデアを着想。翌2007年にオランダ、ユトレヒトでそのコンセプトを形にし、Seats2meetを開始した。
Seats2meetは、自社管理するコワーキングスペースとは別に、他社のスペースとも提携している。提携先には、サービス内に掲載するスペースの形態は指定しない。提携先が持つキャパシティの一部をSocial Capitalと引き換えに借し出すことだけを求める。それぞれのスペースの運用形態やその地域の文化を尊重する考えだ。
スペースを無料で貸し出すことの運営者にとってのメリットは、やはり宣伝であるようだ。スペースの一部をまったく新しい顧客に無料で貸し出すことで、スペース内にミーティングスペースやプライベートデスクスペースがあることが認知され、利用される機会を増やす。また、貸切のプライベートイベントなどに利用できるところもある。
2012年にはユーザー数は1万5000人を超え、年間の予約数は6万席に。2015年初めにはユーザー数も7万人を超え成長を続けている。2015年7月には、「B Lab」という社会的責任を果たす企業を認証するアメリカの非営利団体から「B Corporation」の認証を受けた。これは環境、社会に配慮した事業活動をし、アカウンタビリティや透明性などB Labの基準を満たした企業に与えられるものだ。
共同創業者のMarielle Sijgers氏は、今後5年間でユーザーがどこにいてもSeats2meetを利用できるよう、さらなる拠点の拡大に注力するという。コワーキングスペースだけでなく、カフェや図書館、ショッピングモールやホームオフィスなど、人が集まれる場所を用意することで、さらにイノベーション、コラボレーションが生まれる可能性を高めていく考えだ。
それを推進すべく、2015年3月にはオランダ、ユトレヒトで、世界中からコワーキングスペースのオーナーやエキスパートを集め、グローバルカンファレンスを開催。今後のスペースのあり方について意見を交換しあったようだ。
今回、筆者は14~17時までの3時間利用してみて、恥ずかしながら誰とも会話できなかった。こういった経験はシャイで遠慮しがちな日本人にはよくあることかもしれない。しかし、その経験から自分自身の人との接し方を改めて考える機会になった。それと同時に、自分にはない積極性とそこから生まれる可能性を考えずにはいられなかった。
今後、日本でも利用可能なSeats2meetのスペースが増えることに期待したい。そうすれば日本人が自分たちの働き方や価値観を改めて見つめ直すきっかけにもなるだろう。
(編集協力:岡徳之)
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