”イノベーションのジレンマ”を持ち出すまでもなく、大成功を収めた──とりわけ、業界全体のプラットフォームと言える領域で独占的な地位に登り詰めた企業は、いつか別の破壊的イノベーションにしてやられるものだ。
しかし、かつてのMicrosoftはライバルの失態に助けられた面もあったものの、持ち前の嗅覚と俊敏さで、時代から取り残されることなく、他者が発見したイノベーションの種をも感じ取り、多少先行されてもあっという間に追いつくことで”時代から取り残される”ことを回避してきた。
前述した初期のWinodws 95における時代錯誤と、数カ月で時代に追いついたスピード感。あれこそがMicrosoftの強さだったと言えよう。
しかし、そんなMicrosoftが時代から取り残された時があった。2007年に生まれたiPhoneが生み出したイノベーションに、Microsoftは追従できなかったのだ。もっと正確に言えば、パーソナルコンピューティングとモバイルデータ通信ネットワークの融合が、時代を前に進めるエンジンになることは、彼らも知っていたはずだ。だからこそ、Windows Mobileに取り組んでいたのだろう。
しかし、Microsoftがモバイル戦略で迷走を続けているうちに、iPhoneが”パーソナルコンピュータ”の定義を書き換えてしまい、ふと気付けばスマートフォン時代の蚊帳の外。あれだけの力がある企業が、あれだけ早いうちから取り組み、しかしまったく成果らしいものを出せてこなかった。
”なぜか?”の正しい答えはないのだろうが、Microsoftはパソコンの世界で強すぎたが故に、新しい時代のパーソナルコンピュータであるiPhone(スマートフォン)への対応が遅れたのも理由のひとつだろう。当時、すさまじく使いにくかったAndroidスマートフォンが、その後、主流になっていったのは、iPhoneの良さに気付き、その後ろをキレイにトレースしながらユーザーインターフェースや機能を整えたからだ。
これに対してMicrosoftの動きは遅すぎたのだ。
──と、これはもちろん「過去の」Microsoftの話である。現在のMicrosoftは、サティア・ナデラCEOの元に、過去とは異なる戦略を推し進めている。モバイルファースト、クラウドファーストといった言葉を発信し、顧客価値を高めるための製品戦略を打ち出している。
WindowsプラットフォームのOfficeが、iOSやAndroidに本格展開され、そもそもパッケージとしてのOfficeを廃止して、サービス商品に切り替えたのもそうした考えの一貫だ。その先にあるのはクラウドやモバイルなどの環境で、Microsoftの製品がシームレスにつながるコンピューティング環境の実現である。
かつてMicrosoftが支配していた「パソコン1強時代」には、そのような戦略は不要だった。それ故に出遅れたが、もともと企業向けシステムや企業向けのクラウドプラットフォーム、およびサービス提供、それにパソコンとパソコン用ソフトウェア、開発ツールで強みを持っていることを、シームレスコンピューティング実現のために投入することで自らの居場所を見つけたのが今のMicrosoftと言えるだろう。
もちろん、コンシューマーの目からは、Surfaceシリーズの充実やWindows 10といった具体的な製品に向くのだが、たとえ優れたハードウェアや優れたOSを開発しても、それだけでは評価されない。
たとえばWindows 10が、もっとOneDriveなどの存在を意識させ、使いこなさなければならないOSだったなら、スマートフォンやタブレットといったジャンルでの負け戦を巻き返すことなどできない。だからこそ、元来のパソコンユーザーがそっぽを向いたWindows 8を反省し、従来からのデスクトップ画面を用いた操作性を磨き込み、それでいてWindows 8が提案したタッチパネル活用を上手に取り込んだ。
画面デザインやデバイスタイプごとに同じソフトウェアがユーザーインターフェースを変えるContinuumという機能も、こうした流れの中で生まれてきたものだ。従来からの”パソコンらしい”使い方を進化させる方向の改良により、Windows 7からバージョンアップも買い換えもできなくなっていたユーザーは、ここでやっと新しい世代へと向かえるだろう。
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