近年、日本のゲーム業界において急速に聞かれるようになった「eスポーツ」。テレビゲームやビデオゲームをスポーツとしてとらえたものの総称で、競技の一種として大会などが開催されている。
海外ではその大会に賞金がかけられるようになり、またeスポーツをショービジネスとして発展させ、大規模会場で開催するようにもなっている。そこで動く金額が1億円単位となっていることも珍しくなく、賞金総額が20億円を超えた大会も開かれるようになってきた。また、その賞金や企業からのスポンサーを受けて活動するプロプレイヤー(プロゲーマー)も出現。収入が1億円に到達するプレイヤーもいるという。
日本ではこれまで数多くのゲーム大会など開催されてきたが、スポーツという認識は無い。またゲームが玩具から派生した遊びの延長としてとらえられているイメージが強く残っていること、さらには海外のeスポーツとしてよく使われているタイトルが、日本ではなじみが薄いといった事情もあってか、この分野では海外からは遅れをとっている状態が続いていた。
もっとも、昨今では対戦格闘ゲームを中心にプロプレイヤーが次々に登場するようになったほか、月給制を敷くチームを出現。eスポーツを扱う専門学校まで登場し、日本でも徐々に高額の賞金制大会が開かれるようになるなど、eスポーツの言葉が使われるようになり浸透しつつある。
そんな日本のeスポーツのこれまでとこれからについて、日本eスポーツエージェンシー代表の筧誠一郎氏に聞いた。筧氏は電通に27年間在籍し、音楽業界での広告やイベント、ゲームソフトのプロデュースやイベント運営などに関わっていた。そんな中、eスポーツの存在を知り、日本eスポーツ協会設立準備委員会や日本eスポーツ学会などの立ち上げに参加。2011年に独立後は、eスポーツ大会の主催や関連事業のコンサルティング、講演活動をはじめ、日本で初めてとなるeスポーツ専用施設の「e-sports SQUARE」や、専門のテレビ番組「ゲームクラブ eスポーツMaX」の企画プロデュースなど、eスポーツのさまざまなシーンに携わり普及活動をしている。
eスポーツの存在を知ったとき衝撃を受けまして、ゲームが将来的に新しいスポーツエンターテインメントとして、野球やサッカーに並ぶような人気や知名度を持つスポーツビジネスになるだろうと、それぐらいのコンテンツだと思いました。当時電通の中で活動していましたが、日本では時期尚早でしたし、リーマンショックなどで売上の見込みが立ちにくい案件への投資というものに会社内で力を注げなくなったんです。それでもコンテンツのポテンシャルを信じていたので、独立しました。
もっとも当時はeスポーツという存在もなかなか周囲には理解してもらえませんでした。ゲームメーカーの社長クラスの方々ともお話する機会もあったのですが「ウソを言ってるの?」といわれるほどでしたし。独立したことについても、誰からも賛同は得られない状況でした。eスポーツという言葉が聞かれるようになったのも、本当にここ1年ぐらいかと思います。
その名誉にしても、世界とは比べものになりません。例えばサッカーゲームのFIFAシリーズでは、FIFA(国際サッカー連盟)主催で公式世界大会が行われますし、優勝プレイヤーはバロンドール授賞式に招待されて、サッカー選手のスタープレイヤーとともにFIFAから表彰されるんですね。ゲームとそのプレイヤーに対してそれぐらいの地位を認めているんです。日本では名誉が主体と言ってもまだまだなんです。
まず根底としてあるものが、ゲームに対するイメージです。小学生のときにゲームがうまい子はヒーローになれるのに、年齢が上がるにつれオタクと呼ばれるようになり、後ろ指を指される現状があります。世界大会に出場できるくらいに上達しても「そんなことやってて大丈夫か?」と心配されるのが日本です。好きなことに一生懸命打ち込む姿は素晴らしいはずなのに、それが理解されていない状況はいまだにあると思います。
海外では1990年代の後半に、フェラーリが優勝賞品として用意された大会をきっかけとして、高額の賞金が用意される流れになった、という認識でいます。私がeスポーツに触れ始めた2000年代中盤ぐらいには、数千万円の賞金が用意されるようになっていました。そしてここ数年は億単位で賞金が用意されるようになり、2015年には賞金総額22億円の大会が開催されるまでにいたりました。さすがに22億円は行き過ぎ感も否めないのですが、賞金が億単位であることは珍しくなくなりつつありますし、プレイヤーの収入で1億円を超える人もゴロゴロと出てきています。
海外のeスポーツにおけるゲームジャンルはFPS(First Person shooter)とMOBA(Multiplayer Online Battle Arena)が圧倒的に人気です。FPSは「Counter-Strike: Global Offensive」をはじめさまざまなタイトルで人気があります。MOBAは「Dota 2」と「League of Legends」(LoL)の2強といっていいでしょう。
これらのタイトルはPCゲームです。逆にここが日本ではなじみが薄い上に、PCゲーム自体もあまり浸透しなかった。コンシューマゲームが中心で、RPGに代表されるストーリー性に重きを置いたタイトルが人気の中心になっていきましたし、それが日本の花形になって優秀なクリエイターがそこで才能を発揮するようになりました。それ自体を否定するつもりはないのですが、日本人向け過ぎてしまったのでしょう。海外ではメジャーなタイトルやジャンルが、一部の愛好家止まりになってしまったことも、要因のひとつととらえています。
もちろん昨今では日本でもプロゲーマーも誕生し、DetonatioN FocusMe(※プロチーム「DetonatioN」におけるLoL部門のトップチーム)のような月給制を敷くところも誕生しました。これは日本では特筆すべきことだと思います。でも、まだ世界の壁は厚く、賞金による収入もそれほどではありません。運営はスポンサー頼みというのが現在の実情かと思います。対戦格闘ゲームのプロプレイヤーのほうが、個人戦だからというのもありますけど賞金収入は大きいと思われます。
日本はガラパゴス化しているという認識だと思います。ある欧州のメディアが日本でゲームの源流を探る、というような取材をされていた中で、いろいろなゲーム会社やユーザーと話をしたそうですが、「僕たちが好きで遊んでいて世界中でプレイされているゲームを日本では誰も遊んでないし、そもそも知られていない」ということに驚きを感じたと話していました。
海外では、日本は世界に影響を与えたゲーム大国のイメージもいまだ残っていますが、「日本はどうしてしまったんだろう」ぐらいの見られ方をされていると思っています。eスポーツシーンでも日本製のタイトルは本流ではありません。前述のように日本のゲームメーカーに話をしても理解してもらえない状況でしたから、関心を持たなかったらこういう状況になってしまうのは仕方がないと思います。
確かにその通りです。ただ、12月に開催されたカプコンカップは賞金総額が約3000万円とされていて、対戦格闘ゲームでは最高金額としています。決して少額ではないですけど、すでに億単位の大会が珍しくないeスポーツシーンの現状からみると、本流の市場からは外れていると言わざるを得ない状況なんです。
僕は陸上競技とeスポーツは一緒とよく言ってます。地面の上で行う競技を総称して陸上競技と呼んでますけど、eスポーツはデジタル上で行うさまざまな種目を総称してeスポーツと呼ぶものと考えています。陸上競技にも100m走のような短距離走やマラソンといった注目を集める花形競技もあれば、そうではないものもある。eスポーツも同じです。
日本人が活躍していると、日本の目から見てそこが花形のように映ります。でも、例えばサッカーのFIFAシリーズ1タイトルと、対戦格闘ゲーム1タイトルの売上を比べると、確かに日本では対戦格闘ゲームのほうが売れると思いますけど、世界規模で見ればFIFAのほうが圧倒的に売れていて、プレイヤー人口も多いです。プレイヤー人口を考えると、まだeスポーツの世界で日本の居場所は大きくないと受け取ってもいいと思います。
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