「よくスマートウォッチと比較されるが、目指しているのはガジェットではなくファッションアイテム。ソニー発のデジタルファッションブランドを立ち上げたい」――。
11月21日に店頭販売を開始した電子ペーパー腕時計「FES Watch」を手がけた、Fashion Entertainmentsプロジェクトのチームリーダー・杉上雄紀氏(ソニー 新規事業創出部 FE事業室 統括課長)は、製品に込めた思いをこう語る。
FES Watchは、文字盤とベルトを電子ペーパーで仕上げた腕時計で、ファッションとテクノロジを融合する「Fashion Entertainments」の第1号商品。文字盤の横にあるボタンを押すことで、文字盤とベルトの柄を瞬時に変えることが可能で、デザインは24通り用意されている。あくまでもファッションアイテムとして位置づけており、スマートフォンとの連携や、GPS機能などは搭載していない。税込価格は2万9700円。
ソニーでは、社内から提案される新たなビジネスコンセプトの事業化を促す新規事業創出プログラム(Seed Acceleration Program)を2014年4月から開始しており、FES Watchも同プログラムから生まれたという。クラウドファンディングサイト「Makuake」で一般消費者から支援を募集したところ、3週間という短期間で目標額の139%を達成。好評を受けて追加応募を受け付け、最終的には目標額(100万円)の1591%となる1591万円の支援を集めることに成功した。
電子ペーパー製の腕時計というユニークなアイデアが生まれたきっかけは3年前に遡る。当時、テレビ事業のソフトウェアエンジニアをしていた杉上氏は、東京ゲームショウを視察した際に、「数十年前は花札などアナログだったものが、一気にデジタル化して人々を熱狂させている。逆に人々を熱狂させているけれど、まだデジタル化していない分野は何だろうか」と考えた。
その日は答えが出なかったが、翌朝にテレビで東京ガールズコレクションで盛り上がる女性たちを見て、“ファッションのデジタル化”に大きな可能性を感じたという。一方、社内を見渡すと電子ペーパーの技術がすでにあり、「これまで紙の置き換えとして使われていた素材を、柄が変わる“布地”に置き換えてみてはどうか」と閃き、いつでも身に着けることができ、他人が見ても楽しめるファッションアイテムを作ることを決めた。
ただし、開発までの道のりは平坦ではなかったと杉上氏は振り返る。そもそもソニー社内にファッション専門のチームはなくノウハウもなかったため、アイデアに賛同してくれる仲間を部署内で集めた。しかし、多忙な中で業務外に活動していたため、社内のアイデアコンテストでは満足のいく結果が残せず、一度はチームを解散。別のチームで再び挑戦して賞を獲得し、2014年に発足した新規事業創出部で育成するプロジェクトとして抜擢された。
最初の製品として腕時計の開発が決まってからも、技術的な課題は多かったと杉上氏は話す。電子書籍端末などに使われる四角い電子ペーパーと違い、時計に応用するには丸くする上に曲げなければならないからだ。「前例がなくすべて手探りだった。これまで紙として使われていた電子ペーパーをファッションアイテムにいかに転用するかは、技術的に最も苦労したところ」(杉上氏)。さらに、電子ペーパーで時計を動かす機構や、バックルなどもすべてゼロから開発した。
またFES Watchは当初、ソニーという社名を隠してクラウドファンディングサイトで支援を募ったことでも話題となった。その理由について杉上氏は、「社名を出してしまうと、『ソニーだから買ってみよう』みたいなことが起こりうると思った。純粋な商品価値を図るため、あえて自分たちからは明示しなかった」と説明。新規事業創出という新たなスキームの中で、ユーザーとの“共創”にもチャレンジしたかったと思いを明かした。
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