最後に登壇した医療用医薬品・ワクチンをつくる製薬会社MSDのサイ氏は、数年前に『The New York Times』が掲載した小話から話し始めた。「ある父親が大型小売店に怒鳴り込んできた。その理由は“10代の娘に妊婦向けの広告クーポンを送ってきた”からだという。店の店員はビッグデータの失敗例だと謝ったが、数日後に再び父親は小売店を訪ねて謝った。実は娘は妊娠していたからだ」(サイ氏)。
さらにサイ氏は「Googleは検索キーワードを基にCDC(米疾病予防管理センター)よりも早くインフルエンザの流行を予測していた」とする事例を紹介し、ビッグデータ活用の有用性を説明した。
だが、医療に関するビッグデータは上手に活用されていない。その理由は、医療従事者や患者、IT企業とで医療データが分断されて「パズルのようにバラバラ」(サイ氏)に存在するためだ。「既にわれわれは薬ではなくソリューションを提供する企業になりつつある。医療関係者と企業、政府がそれぞれのデータを統合し、パートナーシップを組んでよりよいソリューションを提供していきたい」と自社のスタンスを説明した。
各人のプレゼンテーションが終了してディスカッションに移ると、司会を務める川渕氏は、「何を変えれば日本の医療ITはよくなるのだろうか」というテーマを掲げて3人の登壇者にコメントを求めた。
粂氏は、「自分の周りでもTwitterで風邪の流行度合いを研究していたが、厚生労働省に提案すると“信用度が低いデータは使えない”と冷淡な対応だった。確かに信頼度は大事だが、それを担保しすぎるとデータが使えなくなる可能性があるため、一定の範囲でデータを寛容に扱うスタンスが必要だ」と発言した。
それを受けて久世氏は「日本はデータ収集やオープン化に保守的だ。個人情報保護は重要だが、データを活用することの価値に気付いていない」と述べた。また、「実際に動いている(Health 2.0関連の)デバイスを体験すれば保守的な考え方も氷解し、医療ITに関わる非医療従事者も巻き込んで普及が進む」(久世氏)と予想した。
サイ氏は「現在の医療従事者はデータに敏感になりすぎており、これがビッグデータ活用の弊害となっている。個人によって考え方は異なるものの、患者、医療関係者全体のパラダイムシフトが必要だ」と語った。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
すべての業務を革新する
NPUを搭載したレノボAIパソコンの実力
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力
先端分野に挑み続けるセックが語る
チャレンジする企業風土と人材のつくり方
日本のインターステラテクノロジズが挑む
「世界初」の衛星通信ビジネス
NTT Comのオープンイノベーション
「ExTorch」5年間の軌跡