高校2年女子A菜は、ネタがなくて他人の写真を拝借してツイートしたことがある。「リア充な投稿をしている友だちばかりで、自分だけ何も投稿できなくて肩身が狭かった。ネットで探した写真を使って美味しそうなスイーツ写真を投稿したら、友だちに『美味しそう』『羨ましい』と評判が良かった」という。いい気分になったけれど、癖になりそうで怖かったそうだ。
「後で『あのスイーツ東京でも手に入るんだ。デパ地下とかに出店してたの?』と友だちに聞かれて焦った。ばれるかもしれないと思ったら、もう嘘をつくのが怖くなった」とA菜は言っていた。それからはなるべく自分で出かけたり買ったりして、少しでも盛った写真を撮ることに命をかけているそうだ。
自己演出が過剰になり、別人格になってしまう人もいる。中学3年男子B介は、ゲームの中では好戦的で強気の兄貴キャラとして知られている。ところが、クラスではどちらかというと大人しい方で、他人と喧嘩などしたことがないという。「大人しいと強そうには見えないから、強気でいたらどんどん本当に強気になった。リアルではできないことができて気持ちがよかった。みんなが尊敬したり、喜んだりしてくれるから、学校よりずっと楽しかった」。
リアルな生活においては、自分のキャラは、外見や能力など、様々なものによって規定されてしまう。ところが、ネットでは外見、能力、職業どころか、性別や年齢さえも簡単に偽ることができる。ネットにおいて、理想の自分になることはとても簡単なことなのだ。うまく振る舞えば、リアルでは得られない人間関係を得ることもできる。たとえば尊敬されたり、称賛されたり、注目されたりすることもできてしまう。リアルよりネットの方が快適になってしまっている若者は少なくないのだ。
既に述べた通り、SNSは自分を良く見せるために使われることが多いものだ。多くの人が良いことだけを書き、日常の等身大の自分は省く。SNSに書いてあることがその人の生活そのものではない。そのことを理解し、必要以上にSNSの投稿に過剰反応すべきではないのだ。
ネットで偽りの世界を作り上げることは簡単だ。しかしそれでは、リアルの自分の生活は少しも変わらず、いつまでも理想の自分に近づくことはできない。自分の時間は、リアルの人生を充実させるために使うべきだ。もし過剰にSNSにおける自己演出にはまっている若者がいたら、周囲の大人は肩の力を抜き、リアルの人生を充実させることこそが大切だと諭してあげてほしいと思う。
高橋暁子
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、Webメディア等の記事の執筆、企業等のコンサルタント、講演、セミナー等を手がける。SNS等のウェブサービスや、情報リテラシー教育について詳しい。
元小学校教員。
『スマホ×ソーシャルで儲かる会社に変わる本』『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(共に日本実業出版社)他著書多数。
近著は『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)。
ブログ:http://akiakatsuki.hatenablog.com/
Twitter:@akiakatsuki
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