評判のよいThe Ice Ballerだが、難点がないわけではない。まず、冷凍庫に24時間入れた後、シリコンの型がステンレススチールのカップに密着してなかなか外れないという意見が顧客から寄せられた。
そこで同サイトでは、The Ice Ballerを使用する手順を一通り示すための動画を新たに作成してアップし、型を外しやすくするためのコツも伝授するようになった。
しかし動画や情報の提供では解決できない問題もあった。The Ice Ballerの最大の欠点は、24時間かけて氷が1個だけしか作れないことだ。自分の晩酌用だけなら1日1個でも十分かもしれないが、急に友人を家に招いて一緒に飲みたくなった場合には間に合わない。
また、意外と多かったのは、球体だけでなく、四角くて透明な氷も作れるようにしてほしいという要望だった。
リトル兄弟はそうした顧客からの声に真摯(しんし)に耳を傾け、「透明な球体の氷」または「透明な立方体の氷」を4個同時に作成できる「The Ice Chest」を開発した。
The Ice ChestもまずはKickstarterでキャンペーンを立ち上げ、先行注文を取った。キャンペーンの目標額は50万ドル(約600万円)、開催期間は2014年7月24日から9月7日の45日間だったが、何とキャンペーン開始から22時間で目標額に到達。最終的には24万1204ドル(約2894万円)が集まった。
正式販売となった際には定価120ドル(約1万4400円)での販売を予定している製品を85ドル(約1万200円)で手に入れられるチャンスであると宣伝したことももちろん影響したが、それ以上に、The Ice Ballerの発売後に顧客との間に信頼関係を築いてきたことがこの成功に貢献した。The Ice Chestの購入を申し込んだ人の中には、The Ice Ballerを購入していた顧客も少なくないという。
現在、WintersmithsのECサイトのラインナップは前記の2つの製品以外にも関連商品が追加され、次のようになっている。
「Kanpai Rocks Glass(カンパイ・ロックス・グラス)」「Ebisu Cocktail Shaker(恵比寿カクテルシェーカー)」といったネーミングに、同サイト誕生のきっかけをもたらした日本の酒文化への敬意が感じられる。日本人からみると、ちょっと誇らしい気持ちにしてくれる。
顧客からの意見を商品開発に取り入れ続け、いまや「お酒好きのための高級道具店」という風格に昇華したWintersmiths。オープンのきっかけだけでなく、その後の展開も参考になる面白いECサイトだ。
尼口 友厚
ネットコンシェルジェ
CEO
明治大学経営学部卒。米国留学からの帰国後、デザイナー/エンジニアとしての活動を経て、2002年に国内有数のウェブコンサ ルティング会社「キノトロープ」に入社。 2003年、同社関連会社としてネットコンシェルジェを設立。eコマースとブランディングを専門領域とし、100億規模の巨大ECサイトからスタートアッ プまで150を超えるクライアントを抱える。
2015年にベンチャーキャピタル2社より資金を調達し、キュレーションコマースプラットフォーム「#Cart」を開始。趣味はブラックミュージック鑑賞。著書に「なぜあなたのECサイトは価格で勝負するのか?」(日経BP)。
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