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「EC売上アップ」のコツ

“科学の視点”で料理を教える「ChefSteps」、メディアコマースで成長

尼口友厚(ネットコンシェルジェ CEO)2015年09月29日 08時00分
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 「分子ガストロノミー」という言葉をご存知だろうか。コトバンク(知恵蔵2015)によれば、“調理による食品の変化を分子レベルで解明し、経験に基づいて伝えられてきた料理の技やコツを科学的に説明しようとする研究分野。ガストロノミーは、美食学や美味学などと訳され”るという。

 聞けば聞くほどよく分からなくなってくるのだが、要するに「今までの料理は技術や経験頼りで分かりにくかったけど、もっと科学的に料理にアプローチしてみよう」という試みらしい。これにより、どのような条件でどのような結果が出るかがより明確になる。たとえば卵であれば、「この温度であれば、~分茹でれば半熟になる」といった具合だ。


「ChefSteps」トップページ

 今回取り上げる「ChefSteps」は、そうした科学的な見地にもとづいた、高いレベルの料理のオンラインクラスやレシピなどを提供するサービスだ。スタッフには受賞歴のあるシェフや映画製作者、デザイナー、科学者、技術者などがそろっており、24時間をかけて煮込む必要のある料理を半分以下の時間で調理する方法をはじめ、スモーカーやバーベキューグリルがないような場合でも本場クラスのバーベキューを作る方法などを提供している。

 同サイトは2013年、米国シアトルで設立。サイトの利用者数は45万人、Facebookで獲得した「いいね!」は35万件と、一般的な料理好きからレストランの料理人まで、幅広い層の人々に支持されているという。

料理の本に魅せられ、化学から料理の世界へ

 ChefStepsの創業者はワシントン大学で数学・生化学の学位を取得したクリス・ヤング氏。同氏は大学にいるときに、「On Food and Cooking」という名前の科学的なアプローチで料理を考えた本に出会い、すっかり魅了されてしまったという。

 これを機に料理に興味を持ちだしたヤング氏は、その後、いくつもの料理本を読んでは少しずつ知識をストック。さらに米国で屈指の人気を誇るシェフであるトーマス・ケラー氏が書いた「The French Laundry Cookbook」という本に出会ったことで、シェフになりたいと真剣に考えるようになった。

 もっとも、ヤング氏はこれまで料理に関する正式な教育を受けてきたわけではなく、関連の仕事に就いた経験もない。このまま化学の世界に進むのと、料理の世界に飛び込むのとではリスクの大きさがはるかに違っていたが、「料理の方が楽しい」と感じていたヤング氏は結局こちらの道を選び、運良くシアトルのレストランで雇ってもらえた。オーナーからは「シェフになりたい科学者」という点をむしろ評価されていたようだ。

 2003年には人員不足で手伝った経緯から「斬新なアイデアや技術の開発に焦点を当てた、新しいタイプのレストランを開くから手伝ってくれないか」と乞われ、型にはまらない英国の創造料理店「Fat Duck」に勤務。この店の人気と売り上げの拡大に大きく貢献する。

 このFat Duckで、ヤング氏は自身と同じく、科学的なアプローチの料理を実践している有名人に出会った。彼の名はネイサン・ミアボルド。世界的な物理学者であるスティーブン・ホーキング氏の助手を務めたり、MicrosoftのCTOにのぼりつめながら、1999年に同社を退職して料理の道に進んだ人物だった。

 ミアボルド氏と意気投合したヤング氏は、彼のプロデュースの元チームを組み、これまでになかった科学的かつ斬新なアプローチの料理本を製作することを決意。このチームは最終的に価格500ドル(約6万円)、全6巻、総数2438ページにおよぶ大著「Modernist Cuisine:料理のアートと科学」を発表する。


(出典:Modernist Cuisine)

 同書では「調理器具ごと料理を切った断面図」など、科学的な視点から料理を徹底解剖し、水の温度調節器、遠心機、親コロイド、乳化剤、酵素など、さまざまな科学的手法を駆使したレシピを紹介。ただ科学的なだけでなく、3216枚のアーティスティックな写真もふんだんに使った、見た目も美しいもので、ウォールストリートジャーナルに「私たちの時代のもっとも驚くべき料理」と絶賛されるなど高い評価を得ていった。

 しかし、この書籍は高価でページ数も多く、一般の利用者にはなかなか手を出しづらいものでもあった。新しいことにチャレンジしたいと思っていたヤング氏は同書の価格の高さに目をつけ、もっと多くの人が手軽にアクセスでき、科学的なアプローチの料理を楽しめるようにしたいと考える。

 そこで、この本のプロジェクトに関わっていたシェフのグラント・リー・クリリー氏や、チーフカメラマンのライアン・マシュー・スミス氏らとともに、科学的なアプローチの料理のレシピやクラスを提供する「Chef Steps」を2013年に始めることになったのだった。

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