先にお話したように、この「読書世論調査」が電子書籍について調べ出したのは、2008年版(調査対象は2007年)からのようです。その後、2010年版と2011年版、2013年版、2014年版でも調査されています。2009年版、2012年版では調査されなかったようです。
現在の意味の「電子書籍」は、スマートデバイス(スマートフォン、タブレット)や電子書籍専用端末で読まれるものを指し、日本では2010年以降に利用されるようになった(いわゆる「電子書籍元年」)ので、これまで2011年版以降の数字を紹介してきましたが、それ以前にも日本では「ある種の電子書籍」は利用されていました。
特に、2006~2008年あたりの「ケータイ小説ブーム」はすさまじく、「ケータイ小説」から生まれた(紙の)書籍が、一時は(紙の書籍の)ベストセラーリスト上位の半分ほどを占める状態にまでなりました。
2009年版と2010年版「読書世論調査」では、次のような質問で、電子書籍の利用を聞いています。「あなたは、携帯電話で小説(いわゆる“ケータイ小説”に限りません)やコミックを読んだことがありますか(携帯サイトに接続できる携帯電話を持っている人)。」(2009年版)、「あなたは、パソコンや携帯電話で本を読んだことがありますか。」(2010年版)。
これらも「電子書籍」の利用率として捉え、1つのグラフにしてみたのが以下です。
なんと、女性では2007年、男性では2009年に現在とほぼ同レベルで電子書籍は利用されていたのですね。年代・性別をより詳細に見ると、以下のようになります。
特に女性の10代後半についていうと、2007年、2009年は、現在よりもはるかに利用率が高かったのです。居住地別に見ると、2010年以降の「電子書籍」と違って、都市部 以外」の利用が目立ちます。
職業別はどうでしょうか。
現代の「電子書籍」と比べて、2009年までの電子書籍は、「自営業」「農林業」「主婦」の数値が高いのがわかります。
「電子書籍の普及が進んでいる」と言われながらも、「実は(一部の層では)2009年までの方が使われていた」という衝撃(?)の事実がわかってしまったわけですが、これを、どう捉えたらよいのでしょうか。
1つに、「読んだことがありますか?」と利用の有無だけ尋ねた調査なので、限界がある、ということには留意した方がよいと思われます。一度でも100回でも、「利用」は「利用」なので、おそらく総体として利用頻度は、現在の方が上かもしれません。インプレス総研などの売上統計を見る限り、売上金額も今の方が上です。
さらにいえば、質問のワーディング(言葉使い)も微妙に異なるため、連続したデータと見るには慎重を期す必要があります。
とはいえ、古参の電子書籍業界の方がときどき、「ガラケー向け電子書籍の方がよいビジネスだった」とおっしゃることがあります。
その心は、ガラケー時代は、コンテンツビジネスがキャリア(通信会社)の課金システムとスムーズにつながっており、利用者から見ても、今より使い勝手がよかった、ということです。
ガラケー時代の電子書籍は、アプリのインストールや初期設定などの手間が少なく、誰でも簡単に使えたのに対し、今の電子書籍は、アプリのインストールやID、パスワードの管理など、使うまでのハードルが高く、一部のユーザーを離反させてしまった……というのです。
そういえば、筆者の70代の母親も、ガラケー時代まではそこそこ利用していたようなのですが、スマートフォンやタブレットにはあまり関心を示さない、というか、ついて来れないようです。先の性別・年代別グラフで、2007年には、この年代の女性ですら、電子書籍の利用率が8%で、今より高かったことの意味を、もう一度噛みしめてみる必要があるかもしれません。
電子書籍は、今よりもっと使いやすく進化しなければならない――こうした課題が見えた調査結果でした。
林 智彦
朝日新聞社デジタル本部
1968年生まれ。1993年、朝日新聞社入社。
「週刊朝日」「論座」「朝日新書」編集部、書籍編集部などで記者・編集者として活動。この間、日本の出版社では初のウェブサイトの立ち上げや CD-ROMの製作などを経験する。
2009年からデジタル部門へ。2010年7月~2012年6月、電子書籍配信事業会社・ブックリスタ取締役。
現在は、ストリーミング型電子書籍「WEB新書」と、マイクロコンテンツ「朝日新聞デジタルSELECT」の編成・企画に携わる一方、日本電子出版協会(JEPA)、電子出版制作・流通協議会 (AEBS)などで講演活動を行う。
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