隠すだけじゃダメ!スタートアップが知っておきたい「営業秘密」の正しい使い方

大谷 寛(弁理士)2015年07月15日 11時00分

 「営業秘密」と聞いて、皆さんはどういったものを思い浮かべるでしょうか。

 有名なものとして、コカ・コーラの原液のレシピがあります。社内で厳重に管理されていて、限られた人しか目にすることができないとされています。

 それでは、営業秘密として競争力の源泉を秘匿しておけば(ここではコカ・コーラの独特な風味ですね)市場で勝ち続けることができるのかというと、必ずしもそうではありません。実際、1980年頃には、ペプシ・コーラのシェアが高まるとともに「コーラ戦争」といわれる熾烈なマーケティングの応酬が莫大な資金を投じて繰り広げられました。もちろん味の違いはあって、それには秘匿されたレシピの違いが影響しているわけですが、営業秘密を秘匿していても同等のプロダクトを他社が提供するのは結局は時間の問題。防ぐことはできないのです。

 ザ コカ・コーラ カンパニーは、ブランディングに長年注力していて、味自体というよりも「コカ・コーラ」というブランド・イメージによって顧客を囲い込み、勝ち続けているとみるのが穏当です。


 こう考えると、発明、ノウハウなどの競争力の源泉となる情報が皆さんのスタートアップで生まれたときに、それを営業秘密として秘匿するかどうかを決めるためには、その情報に与えられた猶予期間を考える必要があるということになります。

 つまり、その情報(コカ・コーラのレシピ)、あるいはターゲット顧客のニーズを満たす上でそれと同等の情報(ペプシ・コーラのレシピ)を競合他社が見出すまでにどれだけの時間的猶予があるのか、その時間があれば、先行者優位を生かして負けない仕組みを作り上げることができるのかが重要な問いになります。

 他社が同等のプロダクトを出すことができないでいる間に走り抜けて、シェアを一気に取ってしまうことができるのであれば、競争力の源泉を営業秘密として秘匿するのは適切です。たとえば、規模の経済によって大きなコスト競争力を手にしたり、コカ・コーラのようにブランディングによって顧客を囲い込めたりするからです。

 逆に、プロダクトをローンチして半年、1年もすれば他社が同等のプロダクトを出す可能性が十分にあるなど時間的猶予が短かったり、2~3年は時間がありそうだけれども、その後も優位性を持続できる仕組みが現状では見えてこないのであれば、秘匿するのではなく特許出願をして出願日から20年間の権利の取得を図った方がよいです。いずれ公開されるけれども(出願から1年半後)、自社の独自技術として模倣を牽制して、猶予期間を最大化できるからです。

 営業秘密として秘匿するのか、特許出願として開示するのか。この判断は、どういう仕組みで、つまりどういうビジネスモデルで他社に対する優位性を生み出し、将来にわたり維持していくのかをクリアにしていくことと密接に関わっているといえます。

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